大阪大学の小林研介教授らは、大阪市立大学および東京大学らの研究グループと共同で、世界最高レベルの電流雑音測定技術によって、近藤効果の内部構造と量子ゆらぎの関係を解明した。
大阪大学の小林研介教授らは2017年4月、大阪市立大学および東京大学らの研究グループと共同で、近藤効果の内部構造と量子ゆらぎの関係を解明したと発表した。
今回の研究は大阪大学大学院理学研究科の小林氏の他、元特任研究員(現在はパリ南大学講師)のMeydi Ferrier氏、助教の荒川智紀氏、大学院生の秦徳郎氏と藤原亮氏らによる研究グループと、大阪市立大学大学院理学研究科教授の小栗章氏および、東京大学物性研究所助教の阪野塁氏らの研究グループが共同で行った。
近藤効果とは、1つの電子が持つスピンの周りに多くの電子が集まり、一体となって新しい状態(近藤状態)を形成する現象。代表的な量子多体現象で、1964年に近藤淳氏が初めて解明した。量子ゆらぎ(電子のスピンの向きがゆらぐこと)がその要因といわれている。人工原子に閉じ込められた電子が、運動方向の自由度を持つ場合には、通常とは異なる量子ゆらぎが発生し、種類の異なる近藤状態が生じることが分かっている。
今回の研究では、カーボンナノチューブを用いて人工原子を作製し、人工原子を通過する電流を測定した。これによって、近藤状態の種類と量子ゆらぎの関係を世界で初めて解明することに成功した。
人工原子内の電子は、スピン自由度(上向き、下向き)の他に、チューブを取り囲む運動方向の自由度(右回り、左回り)を持つ。今回の研究では、人工原子を制御することで、理想的な「SU(4)近藤状態」を実現した。この状態に磁場を加えていくと、スピンと磁場の相互作用により、自由度の数は“4”から“2”へと変化、「SU(2)近藤状態」に移り変わることを発見した。この結果は理論値と一致することを確認し、量子ゆらぎの指標となる「ウィルソン比」を算出した。
さらに研究グループは、電流に含まれる電流雑音についても測定した。SU(4)近藤状態とSU(2)近藤状態について、それぞれ有効電荷を極めて高い精度で検出した。測定結果から、近藤状態の種類が変化すれば、有効電荷と量子ゆらぎが連続的に変化することを実証した。これらのことから、量子多体現象においては、有効電荷が量子ゆらぎの指標になることが分かった。
今回の成果について研究グループは、「超伝導や超流動など量子多体現象の理解がより深まり、物質の新しい性質や機能を見いだせる可能性が高まった」とみている。
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