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意思決定の仕方を変えて、周りを巻き込む!“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(13)(2/3 ページ)

» 2017年05月29日 11時30分 公開
[世古雅人EE Times Japan]

バラバラの理解から“共振”を生む

 「もっと味方を増やさなければいけない」――。プロジェクトに関わっているというだけで、周囲から白い目で見られると製造部の楢崎が言っていたが、それは間違いないだろう。みんなにもっとプロジェクトについて理解して協力してもらわなければいけない。社長の日比野が、責任問題から代表取締役を退任させられるであろう株主総会も迫りつつある。東京コンサルティング(Tコン)の杉谷と若菜に来てもらい、今の状況を共有し打開策を考えよう……。

杉谷:「なるほどね……。恐らく、プロジェクトでやろうとしていることには、多くの社員は賛同しているでしょう。しかし、プロジェクトよりも仕事をやれ!と言われたら、プロジェクトに協力はしたくてもできないですよね。もともと、指示待ちで自分の意見を言わない社員も多かったですし、今日の須藤さんの話を聞く限り、社員は自分から動こうともしないようですし……」

若菜:「須藤さんたちが一生懸命やっているのに、白い目で見られちゃうんじゃ悲しいですね」

須藤:「現場の社員からなんでここまで言われなきゃいけないんだと思うことも少なくありません。それに、上司の森田はどうしようもないし……」

杉谷:「少しやり方を変えましょう。理解されることを1つとっても、バラバラに好き勝手な方向を向いてもらっていては困るわけです。理解してもらうためには、共感が生まれなければうまくいきません。ちょっとこの図(図1)を見てもらえますか?」

図1 「場」が生み出す「秩序」と「心理的エネルギー」(クリックで拡大)

 杉谷と若菜が示した図は、ひと言で言えば、プロジェクトに“部分的(ローカル)”に共感している人から、全体での理解や共振を生み出すというものだ。全体からのフィードバックを繰り返し、バラバラの見解から、「共通理解」「心理的な共振」へと着地していく。これにより、好き勝手な方向を向いているのではなく「秩序」として収れんする。「心理的な共振」とは「心理的エネルギー」、つまりモチベーションや動機だ。この一連のサイクルを回すために、「場」が必要らしい

 なるほど、言われてみればもっともだと、須藤たちプロジェクトメンバーは皆一様に腑に落ちたようだ。どうやら、杉谷と若菜が言いたいことは、「場」を通じて、とことん対話をすることが重要なようだ。これまでも「見える化」で、「場」には取り組んできている(関連記事:誰もが“当事者”になれ、社内改革の主役はあくまで自分)。

意思決定のやり方を変えろ!

 さらに話は続く。

若菜:「この図(図2)を見てください。上半分と下半分を見比べてほしいのですが、大森さん、分かりますか?」

図2 意思決定の方法を変える

大森:「え!? 俺ですか? うーんと……上半分の“従来型意思決定”はまさに昔と今の湘エレかなと思います。下半分の“対話ベースの意思決定”は理想(ありたい姿)ですね。こういう意思決定ができたら、いい会社になりますね〜」

須藤:「お前にしてはいいこと言うなぁ」

若菜:「須藤さんも同じことを思っていますよね! 声の大きさや経験、勘に依存した“従来型意思決定”は、部分最適で指示待ちになり、組織としても学習しないため成長しません。組織構造も縦割り(セクショナリズム)も多くなります。一方で、下の“対話ベースのコミュニケーション”は正反対で、組織の学習や信頼関係、一体感を生みます」

 企業における対話の意義はよりよく「何かを進める」ところにある。考え、意思決定し、行動するサイクルのベースに対話があれば、「よりよいアウトプット」「自律的な関わり」が期待でき、それが、組織力と体質につながるものだ

 「意思決定のやり方を変える」ことを念頭に置いて、「場」のファシリテーションを考えて、実践してくことが重要なのである。

【ファシリテーションとは】

ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵とりすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味する。その役割を担う人がファシリテーター(facilitatior)であり、会議で言えば進行役にあたる。一般に以下の4つのスキルが要求される。

(1)場のデザインのスキル:場をつくり、つなげる
(2)対人関係のスキル:メッセージを受け止め、引き出す
(3)構造化のスキル:議論をかみ合わせ、論点を整理する
(4)合意形成のスキル:創造的コンセンサスに向けて意見をまとめる、対立を解消する

《出典:日本ファシリテーション協会》


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