QualcommによるNXP Semiconductors買収は、米国の監査当局からの承認は得たものの、EUや中国で承認が得られるかが注目の的になっている。
スマートフォン向け半導体企業大手の米Qualcommは、孤独な法廷争いを続けている。同社は、NXP Semiconductorsの買収について、世界各国の独占禁止法(独禁法)監督機関から承認を得るために奮闘している。
承認基準が比較的緩やかな米国の監査当局は、QualcommとNXPの合併を承認したが、Qualcommにとって次なるハードルとなるのが、EU(欧州連合)の独禁当局による事前審査だ。同審査は、2017年6月9日に結論が下される予定だ。EUは、条件の有無は不明だが同契約を承認すると予想される。
Reuters(ロイター通信)2017年6月2日(米国時間)、「Qualcommは、半導体業界で過去最高額となるこの買収が独占禁止法に抵触する可能性を軽減するために、2017年6月1日までに譲歩案を提出しなければならなかった。だが、6月2日現在、同案は提出されていない」と報じた。
EUがこの合併には深刻な懸念があるとして調査を開始すれば、最大4カ月間、決議が遅れる可能性もあるという。
Qualcommは、同契約が独占禁止法に違反していないとして独禁当局を説得できると考えているようだ。だが、それに失敗すれば、譲歩を申し出ざるを得ないだろう。
EUに加えて懸念材料となりそうなのが中国だ。2017年初頭に行ったEE Timesとのインタビューで、「Capitol Forum」の著者である弁護士のAshley Chang氏は、「MOFCOMは、QualcommとNXPの合併について承認を遅らせて、混乱させる可能性は否定できない」と述べている。
現在中国は、巨額の投資をして半導体産業を成長させようとしている。QualcommとNXPの合併を何らかの交渉の切り札に使ってもおかしくはない。中国にしてみれば、QualcommあるいはNXPのどちらかからIPビジネスを引き抜く、絶好のチャンスなのだ。
QualcommとNXPの製品ポートフォリオは、大部分が相補的であると考えられる。従って、EUが両社の合併に難色を示すとすれば、その理由は不明だ。
Reutersは、匿名筋からの情報として、「ライバル企業は欧州委員会に対し、この買収契約が完了するまでは、NXPの非接触スマートカード技術『MIFARE(マイフェア)』を利用できることを保証するように要請した」と伝えている。
米国の市場調査会社であるIC Insightsでマーケットリサーチ担当シニアアナリストを務めるRob Lineback氏は、「NXPのスマートカード技術がQualcommの管轄下になると、なぜ欧州で問題になるのか」という質問に対し、「2つの理由が考えられる」と述べた。
同氏は、「ライバル企業は、QualcommがNXP買収について中国の承認を得るための対策の一環として、MIFARE技術を中国に売却するのではないかと懸念している。この仮説は、産業政策を重視する傾向を強めている中国商務部(MOFCOM)が、QualcommとNXPの合併契約を承認する条件として事業部の売却を要求する可能性があるという前提に立ったものだ」と述べている。
ただし、Lineback氏は、「Qualcommとのスマートフォン向け技術ライセンスの交渉は一筋縄ではいかないことで知られている。このことが、懸念を呼んでいるのではないかと考えられる」と指摘している。
同氏は、「NXPのMIFARE技術を使っているシステムメーカーなどのライバル企業は、Qualcommが、スマートフォン向けプロセッサを販売するために(より付加価値などを付けるために)MIFAREのIP(Intellectual Property)を利用するのではないかと懸念しているようだ」と説明した。
Qualcommは、NXP買収以外でも、独禁法違反の疑いでFTC(米連邦取引委員会)に提訴されている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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