産業技術総合研究所(産総研)の沼田孝之主任研究員は、機械加工や鋼板溶接などに用いる高出力レーザーのパワーを高精度に制御するシステムを開発した。この技術はレーザービームの形状制御にも応用できる。
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門応用放射計測研究グループの沼田孝之主任研究員は2017年6月、機械加工や鋼板溶接などに用いる高出力レーザーのパワーを高精度に制御するシステムを開発したと発表した。この技術はレーザービームの形状制御にも応用できるという。
開発した加工用レーザーのパワー制御システムは、対向する2個のプリズムからなる素子を用いて、光の反射量を精密に調整することで実現した。その原理はこうだ。プリズムに入射した光のほとんどは底面で反射する。しかし、入射する角度によって一部がプリズム底面から出射する。この光は「エバネッセント光」と呼ばれ、再びプリズム内部に戻って反射光となる。
一方のプリズム底面に別のプリズムを近づけると、エバネッセント光の一部は、近づけた別のプリズム側に抽出される。その分だけ反射光のパワーは減少するという。この時、外部に抽出される光の量は2個のプリズム間の距離に依存する。この距離を変えることで反射光のパワーを制御できることはかねてより知られていた。
沼田氏は今回、システムの出射口にパワーモニターを設置した。その測定値が目標とする値に一致するよう、2個のプリズム間の距離を精密にフィードバック制御することにした。さらに今回、透明度の高いプリズムを用いることで、光の吸収に伴う発熱を抑えることができたという。
沼田氏は、波長が1.1μmで出力が2kW/cm2の加工用レーザーを用いて、開発したパワー制御システムの実証実験を行った。レーザー加工装置の実稼働状況を想定し、レーザーパワーを意図的に変動させた。この結果、ステップ状に5%以上の変動を与えても、フィードバック制御後(ステップ状の変動直後を除く)は、変動を0.1%以下に抑制できることが分かった。300秒から420秒付近の連続的なパワー変動に対しても、フィードバック制御によって一定値を維持できていることが確認された。
産総研は今後、開発したシステムの応答特性をさらに改善していく。さらにシステムの小型化などを進め、早期実用化を目指す。ビーム形状制御技術の開発にも取り組む考えである。
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