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産総研、光照射で高純度ナノ炭素材料の薄膜形成薄膜化とパターニング工程を短縮

産業技術総合研究所の神徳啓邦研究員らは、純度が高いナノ炭素材料の薄膜を、光照射するだけで簡便に作製できる技術を開発した。二次電池用やキャパシターなどへの応用が期待される。

» 2017年01月31日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

ナノ炭素を用いる次世代電子材料の製造効率を改善

 産業技術総合研究所(産総研)機能化学研究部門スマート材料グループの神徳啓邦研究員、松澤洋子主任研究員及び木原秀元研究グループ長らは2017年1月、純度が高いナノ炭素材料の薄膜を、光照射するだけで簡便に作製できる技術を開発したと発表した。これまでに比べて製造効率を大きく改善することが可能となり、ナノ炭素材料を用いる二次電池やキャパシターなどへの応用が期待される。

 産総研はこれまで、各種のナノ炭素材料に向けた水系分散剤の開発を行ってきた。これらの分散剤は光照射によって構造変化し、ナノ炭素材料に吸脱着する特長を持つ。この現象を活用し、単層CNT(カーボンナノチューブ)を精製する手法などを開発してきた。そして今回、分散制御技術と光加工技術を組み合わせることで、分散剤を含まない高純度ナノ炭素材料薄膜の成膜に成功した。

新たに開発した技術の概要と従来技術との比較 (クリックで拡大) 出典:産総研

 ナノ炭素材料の薄膜化は、一般的に有機溶媒を用いたウェットプロセスで行うことが多いという。このため、研究グループは光応答性分散剤を新たに開発した。この分散剤は有機溶剤中でもナノ炭素材料を分散することができ、光に応答してナノ炭素材料の分散状態を制御することも可能である。

 開発した分散剤と単層CNTなどのナノ炭素材料を、炭酸プロピレンなどの有機溶媒中で混合した結果、均一な分散液を得ることができた。この分散液を2.5×2.5cmのPET樹脂基板上に塗布。基板の下方からフォトマスクを通して約20秒間、局所的に波長365nmの紫外LED光を照射した。光照射後に分散液を基板から除去し、有機溶剤で洗浄した。そうしたところ、光を照射した部分にのみ単層CNTが析出し、膜厚20〜30nmの薄膜形成に成功した。

光照射でナノ炭素材料の高純度の薄膜を形成するメカニズム (クリックで拡大) 出典:産総研

 この単層CNT薄膜をX線光電分光法(XPS)で測定したところ、分散剤がほとんど含まれていないことが確認できたという。今回の結果について研究グループは、「光照射前は単層CNTが均一に分散しているが、フォトマスクを通して局所的に紫外光を照射すると、基板近くの単層CNTから優先的に分散剤が脱着し、同時に単層CNTが基板上に析出された」と推定している。分散液の濃度や光照射時間を変えることで、膜厚を数十ナノメートルから数十マイクロメートルの範囲で制御できることも確認した。

 開発した技術は、無機、有機を含むさまざまな素材や形状の基材上でも、単層CNT薄膜を作製することができるという。これまでのウェットプロセスでは困難だった、曲面や凹凸面における薄膜化も可能となる。原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、繊維状の単層CNTを確認することができ、本来の形状を維持したまま単層CNTが薄膜になっていることが分かった。

左は3種類の基材上に作製した単層CNTのパターン薄膜、右はその原子間力顕微鏡像 (クリックで拡大) 出典:産総研

 今回開発した技術は、二次電池やキャパシターなど、ナノ炭素材料の特徴を生かした柔軟で軽量な次世代電子デバイスの開発につながるとみている。研究グループは今後、より均質な膜の作製や基材との密着性の向上、大面積化への対応などに取り組む。さらに、多層CNT、グラフェン、カーボンブラックといった他のナノ炭素材料への適用も進めていく予定である。

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