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産総研、内部短絡しない全固体Li二次電池を開発酸化物系で最高級の導電率

産業技術総合研究所(産総研)の片岡邦光主任研究員らは、高い安全性と信頼性を実現した小型全固体リチウム二次電池を開発した。単結晶を用いて作製した固体電解質部材は、酸化物系で世界最高レベルの導電率を実現したという。

» 2017年02月03日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

ガーネット型酸化物単結晶の合成に成功

 産業技術総合研究所(産総研)先進コーティング技術研究センターエネルギー応用材料研究チームの片岡邦光主任研究員と秋本順二研究チーム長、微粒子スプレーコーティングチームの明渡純研究チーム長(兼任)は2017年2月、高い安全性と信頼性を実現した小型全固体リチウム二次電池の開発に成功したと発表した。単結晶を用いて作製した固体電解質部材は、酸化物系で世界最高レベルの導電率を達成している。

 産総研はこれまで、リチウム二次電池のエネルギー密度や安全性のさらなる向上、長寿命化などを実現するため、さまざまな研究、開発を行ってきた。例えば、リチウム二次電池に用いる正極、負極向けの新しい酸化物系材料の開発、固体電解質部材の単結晶化技術の開発、電極と固体電解質を強固に接合するために開発した独自のエアロゾルデポジション(AD)法とそれを用いた全固体リチウム二次電池の開発などである。

リチウム二次電池の構成イメージ。左は現行品、右は開発品 出典:産総研

 研究チームは今回、これらの技術を組み合わせて、新しい全固体リチウム二次電池の開発に取り組んだ。固体電解質部材の単結晶化に向けては、フローティングゾーン溶融法(FZ法)を用いた。FZ法の条件を工夫することで、これまで困難と思われてきたガーネット型酸化物単結晶を合成することに成功した。

 合成した単結晶を用いて作製した固体電解質部材は、従来の焼結体よりも密集度の高い状態となり、金属リチウムの貫通を防止することができるという。作製した部材の短絡試験を行ったところ、10mA/cm2という高い電流密度においても内部短絡は生じなかった。また、導電率は25℃の環境で10-3S/cm2を超えることが分かった。この数値は、「現時点で酸化物系固体電解質材料としては、世界最高のリチウムイオン導電率となる。有機電解液と比べても同等以上のリチウムイオン導電率である」と研究チームは主張する。

上部の(a)と(b)が今回開発した単結晶固体電解質部材、下部の(c)と(d)はその電気化学特性を示したグラフ 出典:産総研

 さらに研究チームは、電極と固体電解質の強固な接合を行うため、独自開発の常温成膜技術であるAD法を応用した。今回の研究では、ガーネット型酸化物単結晶を用いた固体電解質部材を基材とし、AD法を用いて正極のニッケル系酸化物材料の成膜を行った。この結果、密着性が高い電極−電解質界面を形成することができたという。負極には金属リチウムを用いている。

 これらの方法で開発した小型全固体リチウム二次電池の大きさは、直径5mm、厚み0.7mmである。動作温度25℃において可逆的な充放電が可能で、短絡や発火の危険性もほぼなく、高い安全性と信頼性を併せ持つことが分かった。

上部の(a)は今回開発した小型全固体リチウム二次電池の外観、(b)は作動温度25℃での充放電サイクル特性のグラフ、下部の(c)は開発品の構成イメージ図 出典:産総研

 研究チームは今後、コア技術となる固体電解質単結晶の製造技術について企業と連携し、量産化と品質安定化の研究開発を進める。量産性に優れた単結晶育成技術への展開についても検討を行っていく予定である。当面は、医療分野などで用いられるマイクロバッテリー用途などに向けて、2020年ごろまでに実用化したい考えである。

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