細胞を任意の立体構造に、生体埋め込み素子への応用も:NTTが研究成果を発表
NTTが、微小な生体組織を人工的に組み立てる新しい手法を開発した。導電性や磁場応答性といった機能を付加することで、生体組織の表面形状にフィットする生体埋め込み素子や、新たな生体インタフェースの開発に応用できる可能性がある。
NTTは2017年12月22日、生体適合性が高い高分子薄膜を用いて立体構造を作製し、その構造内に細胞を内包して培養することで、微小な心筋や神経の生体組織を再構築する手法を開発したと発表した。これにより、生体組織の表面形状にフィットする生体内埋め込み素子など、新たな生体インタフェースの開発につながる可能性があると、NTTは期待する。
今回の研究開発では、生体内埋め込み材料として広く用いられてきた、シルクフィブロインゲルとパリレンという2種類の高分子材料を利用。これに、基板との接着剤の役目を果たすアルギン酸カルシウムゲルの薄膜を加えた、計3種類が積層された高分子薄膜を基板上に形成した。この薄膜を、フォトリソグラフィ技術を用いて任意の2次元パターンに成形する。
シルクフィブロインゲル、パリレン、アルギン酸カルシウムゲルの3層を積層し、フォトリソグラフィ技術で加工する 出典:NTT(クリックで拡大)
その後、アルギン酸カルシウムゲルを溶かし、基板から、シルクフィブロインゲルとパリレンを張り合わせた薄膜のみをはがす。アルギン酸カルシウムゲルが溶けていくにつれ、薄膜がくるりと丸まっていき、筒状に変形していく。筒状になる際に、薄膜表面に存在する細胞を取り込んで内包化する。
エチレンジアミン酢酸を用いて、アルギン酸カルシウムゲルを除去する。除去に伴い、薄膜が筒状に変形。その際に細胞を取り込んで内包化する 出典:NTT(クリックで拡大)
内包化された細胞を約1週間培養すると、細胞独自の機能を持つ生体組織様構造に変化していく。NTTの研究では、初代心筋細胞を使い、筒状構造体の内部で培養した結果、細胞同士が凝集して1本の微小な心筋ファイバーとして構造体を形成することを実証したとする。さらに、その心筋ファイバー内の細胞が同期して拍動する様子などが観測されたという。
立体構造の中に細胞が内包化されるイメージ 出典:NTT
構造体の内部で形成された細胞の塊は、細いガラスの管(キャピラリー)を用いて捕捉し、他の場所に移すこともできる。そのため、例えば、細胞を内包化した2つの筒状構造物を隣同士に並べ、細胞を接続させることで、人工的な神経回路を生成できるという。また、任意の生体組織のような3次元構造も作れる。
任意の3次元構造も作製できる。この画像は、ヒト型を模したパターンを生成したところ 出典:NTT(クリックで拡大)
今回開発した技術は再生医療の他、生体組織内埋め込みデバイスなどにも応用できるとNTTは意気込む。例えば、今回の研究で用いた高分子材料に、導電性や磁場応答性といった機能を付加することで、多様な機能を備える新たな生体インタフェース(バイオインタフェース)を開発できる可能性もあるという。
- 半導体チップ上に“人工心臓”を作る――iPS細胞を利用
米国の大学が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って、半導体チップ上に人工の心臓を作ることに成功したという。他の人工臓器をチップ上に形成し、マイクロ流路で接続すれば、薬剤が各臓器に与える影響などを研究できる可能性がある。
- 細胞の“ゆらぎ”を利用すれば超省エネマシンができる!? ――CiNetの研究開発
生体が超省エネで活動できる理由は、細胞の“ゆらぎ”にあるという。ゆらぎを応用すれば、非常に低い消費電力で稼働するシステムを実現できるかもしれない。脳情報通信融合研究センター(CiNet)の柳田敏雄氏が、「NICTオープンハウス2014」の特別講演で語った。
- 9.3GHz帯で2.0MW出力のマグネトロン、医療装置で
新日本無線は2016年8月4日、医療/非破壊検査分野向けとして初となるLINAC装置向けマグネトロンを開発したと発表した。9.3GHz帯で「世界最高水準」となる2.0MWの高出力を実現。これにより、LINAC装置で広範囲の角度から0.5mmの高精度で、がん細胞にX線の照射が可能という。
- 一流の科学技術力を持つ日本人
日本の半導体業界およびエレクトロニクス業界では、低迷が叫ばれて久しい。だが、日本には確かな技術力があるのだ。群雄割拠のこの時代、日本が技術力を余すところなくビジネスにつなげるヒントは、世界屈指のハイテク産業地帯、米国シリコンバレーにある。シリコンバレーのビジネスを30年以上にわたり、最前線で見てきた著者が、“シリコンバレーの活用術”を説く。
- 手に乗せた“バーチャル心臓”が鼓動する! ホログラムを医療現場へ
近い将来、外科手術が大きく変わるかもしれない。イスラエルRealView Imagingは、医師が手のひらに、臓器のホログラフィ画像を乗せ、自由に動かしたり触ったりできる技術を開発している。2013年には、同技術を利用して16歳の患者の心臓外科手術が行われた。
- 「火を消す」有機電解液を開発――東大など
東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは、消火機能を備えた高性能有機電解液を開発した。安全かつ高エネルギー密度を両立した新型二次電池の開発に弾みをつける。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.