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「RISC-V」はEmbeddedでマーケットシェアを握れるのかRISC-V Day 2017 Tokyo(5/5 ページ)

» 2018年01月17日 11時30分 公開
[大原 雄介EE Times Japan]
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Microsemiの講演

写真27:MicrosemiのSenior Technical Director, product architecture and planningのTed Speers氏。氏はまたRISC-V FoundationのBoardも務める

 4つ目に御紹介するのがMicrosemiのTed Speers氏(写真27)のセッションである。Microsemiはもともと、旧Actelの流れをくむIGLOO/ProASICシリーズから、そこにAnalog Componentを追加したMixed SignalのSmart Fusion、そして最近新しくミッドレンジ向けにPolarFireシリーズを追加している。

 現行製品は6K〜140K LUTという低コスト、低容量かつ小型のIGLOO2と、5K〜150K LUTにCortex-M3コア、それと各種I/F類を大量に装備したSmartFusion 2 SoC FPGA、そして100〜480K LUTと高速SerDesを持つPolarFireというラインアップである。

 さて、SmartFusion 2はCortex-M3を搭載しているが、これはHard Coreである。Soft Coreとしては、CoreABC(アセンブラしか無い、非常にシンプルな8bit CPU)、Core8051(8051互換)、Cortex-M1(RTLでの提供のため、一部の製品でしか使えない)がある程度であった。

 同社のProduct Catalogをみると他にPIC16互換のDRPIC166Xもラインアップされているが、これはMicroSemiの提供ではなく、ポーランドのDCD(Digital Core Design)が提供するものに見える。いずれにせよXilinxのMicroBlaze/PicoBlazeとかAltera(現Intel)のNIOS II、LatticeのMico32などに比べるとやや見劣りしていると判断したためだろうか、同社は2016年に早くもRISC-VをSoft Coreとして提供すると発表している(関連記事:「Microsemi、FPGA向けのRISC-V IPコアを提供へ」)。

 そのMicrosemi、最初に提供されたCORE_RISCV_AXI4に続き、Mi_V_RV32IMACシリーズを2017年11月に提供しており、間もなくMi_V_RV32IC_AHBの提供が予定されている(写真28)。当初の製品は10〜26K LUTを占有していて、PolarFireにはともかくIGLOO 2にはちょっと大きいものだったが、新しいMi_V_RV32IC_AHBだと4K LUTで実装できるから、IGLOO 2クラスでも安心して利用できる事になる。ベースがSiFiveのE31だから、SiFiveのE31と同程度の性能/MHzは期待できるし、E31用のOSとかミドルウェア、開発環境もほぼそのまま利用できるのが大きなメリットで、この時点で他の競合Soft Coreに比べて大きなアドバンテージを得た形だ(写真29)。同社によれば性能も良好(写真30)とする。もっとも、MicrosemiによるMarketing Target(写真31)は、ちょっと風呂敷を広げすぎという気もしなくはないが。

左=写真28:ちなみに最初の3つのコアの実体はSiFiveのE31コアそのものである/右=写真29:最初の3つのコアの構成。Mi-V_RV32IMACF_L1_AHBはこれにSingle PrecisionのFPUが追加される事になる(クリックで拡大)
左=写真30:まぁSoft Coreで2 CoreMark/MHz出れば大したものだという気はする/右=写真31:ArmをMobileのみに押し込めておくのはちょっと無理が無いだろうか?(クリックで拡大)

 ということで4つのセッションの内容をお届けしたところで、ちょっと筆者なりの分析というか感想を付け加えたいと思う。再び写真6に戻るが、現在のSoC内部に搭載される多様多種なコントローラーをRISC-Vでまとめることができるか? というと、「いろいろ足りてないんじゃ?」というのが率直な意見である。

 現在のRISC-Vは、Minimum TargetをArmのCortex-M3とかM4に置いており、ISA自身もこの辺りを実現するのがMinimum Requirementと踏んでいる節が見受けられる。ところが実際には、特にSoCに含まれるコントローラーの場合、写真6にもあるようにDSPだったり、32bit未満のMCUだったり、あるいはVLIWタイプのアクセラレータだったりする。こうしたものを置き換えるには、RISC-VのISAはやや汎用の高性能向けに振れ過ぎている(もっと正確に言えば、Base Specificationがちょっと高機能より過ぎる)ように思われる。

 例えばDSPについてはAndesがDSP Extentionを大幅に強化した事を写真19で紹介しているが、逆にAudio DSPとかRadio DSPの場合このDSP Extentionとごく少数のBase Specificationの命令(Load/Storeと若干の制御命令)だけあれば良いように思う。あるいはDSPでもSIMDではなくVLIWタイプの実装だと、そもそもRISC-VのISAと相いれない(現在はCadenceに買収された、TensilicaのXtensaがこのタイプ)。

 また、今でも8〜16bitのMCUが依然として結構な割合を占めているのも事実である。特にSoCの内部のIPで使われるようなものでは、ダイのエリアサイズをぎりぎりまで詰めるために、8bit MCU IPが依然多く使われている。RISC-Vの圧縮命令でこれが代替できるか? といわれると、ちょっと厳しいように見える。こうした用途向けだともちろんMacro Fusionの機能などはコアに搭載されないから、圧縮命令を使ってもまだコード密度は従来の8bit MCUより落ちるだろうし、それをカバーするために大きめのProgram Storage Area(EEPROMになるのかOTPになるのかFlashになるのかはケースバイケース)を必要とするのは、果たして受け入れられるだろうか? と首を傾げざるを得ない。よくArmが"One size doesn't fit all"を口にする(彼らの意味は「1種類のコアで全てのマーケットに対応させるのは無理」)が、RISC-Vもこうした組み込みのローエンドにはちょっとFitしないんじゃないか? という気がする。

 その一方でもう少し上のレベル、それこそCortex-M3以上のレベルでは、なかなか悪くないFeatureと、特に中国などでは魅力的なライセンス形態になっている。特にちょっとしたコントローラー向けで、従来だとx86とかArmのCortex-A5/A7/A9などを使っていた用途の代替には、特にライセンス料の関係で今後入ってゆく可能性があるだろう。

 結果として、まず従来のMIPSあるいはPowerPCベースの製品マーケットと、一部ArmのCortex-Aのマーケットを侵食してゆく可能性が高いと思う。Cortex-Mについては難しいが、例えば今回は名前が挙がっていないものの、RISC-V Foundationに加盟しているフランスのCortusは、既にAPS3VというRV32IベースのIPの提供を開始している。5〜7ステージのパイプラインと、わずか8642ゲート(+レジスタファイル)という小ささは、Cortex-M0に匹敵するレベルである。Armのエコシステムに乗る必要の無いユーザーにとって、これはなかなか魅力的なスペックである。なので、Armである必要はないがMCUは必要、という(今となってはややニッチな)ニーズが増えるようであれば、可能性は低くないだろう。

 RISC-Vの次の課題はセキュリティであろうかと思う。ArmのTrustZoneとか、最近MCU向けに提供を開始したPSAにあたるものを、現在のISAのスキームのまま(命令拡張だけで)実装できるのか、あるいはBase Instructionの変更が必要なのか。この辺りをまずは注視したいと思う。

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