産業技術総合研究所(産総研)は、豊島製作所やEサーモジェンテックと共同で、87mW/cm2と高い出力が得られるフレキシブル熱電モジュールを開発したと発表した。
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門応用電気標準研究グループの天谷康孝主任研究員と、計量標準総合センター研究戦略部の藤木弘之氏は2018年1月、豊島製作所やEサーモジェンテックと共同で、87mW/cm2と高い出力が得られるフレキシブル熱電モジュールを開発したと発表した。
これまでもセラミックス基板に熱電材料を実装した熱電モジュールは開発されてきた。しかし、基板が固いため配管などの曲面に用いると熱回収効率が悪く、熱源を効率よく利用することが難しかった。
天谷氏らは今回、熱電材料のn型ビスマス・テルル材に遷移金属をドーピングすると、熱−電気変換の性能指数であるゼーベック係数が増大することを見出した。これにより、熱電材料の出力因子を従来の1.5倍に向上させることに成功した。
このn型ビスマス・テルル材とp型ビスマス・テルル材のインゴッドをウエハー形状に加工し、その上に電極を形成するなどしてビスマス・テルル材のチップを作製した。このチップをフレキシブル基板上に実装し、260対のpn素子で構成するフレキシブル熱電モジュールを開発した。熱電モジュールの外形寸法は、フレキシブル基板も含め約64×64×1mmで、重さは約9gである。
開発したフレキシブル熱電モジュールを実際の配管などに装着する場合には、防水絶縁シートなどで封止をする必要があるという。また、モジュールの開発だけでなく、熱間等方加圧法によって、遷移金属をドーピングしたn型ビスマス・テルル材のインゴットを大量生産できる技術も確立したという。
産総研は、フレキシブル熱電モジュールを評価する装置を開発し、発電性能を測定した。真空中で低温側の温度を30℃とし、高温側を100℃まで加熱した。温度差70℃の環境では、フレキシブル熱電モジュールの開放起電力が約5.3V、内部直流抵抗は2.7Ω、最大発電出力は87mW/cm2となった。曲げ半径50mmで曲げ1000回を繰り返し行い、その耐久性を評価した。その結果、発電出力の劣化は1%以下と小さく、発電性能が安定していることを実証した。
産総研や豊島製作所、Eサーモジェンテックは今後、開発したフレキシブル熱電モジュールの長期信頼性を実証するとともに、熱電材料の性能向上などについて共同開発を継続する予定だ。また、フレキシブル熱電モジュールの実用化に向けて、電源回路や放熱機構を統合した熱電発電システムの開発/製品化を目指すという。
産総研はこれまで、熱電材料や熱電モジュールの測定技術を開発してきた。豊島製作所は熱電材料の開発や製造で、Eサーモジェンテックは、熱電材料のモジュール化で、それぞれ高い技術力を持つ。こうした3者が協力し、IoT(モノのインターネット)時代に不可欠な無線センサーの電源用として、廃熱/未利用熱を活用しつつ、曲面にも使用できる高出力フレキシブル熱電モジュールの開発に取り組んだ。
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