(3)ベンチャー企業との意識のずれ
ベンチャー企業と日本の企業との“意識のずれ”も、無視できない要因だ。幸運なことに案件がつながり、戦略的な提携を目指してやりとりが始まると、大きな障害になるのが、日本と北米ベンチャーの意識のずれである。ここが非常に大きい。日本企業は、まずは技術ありきで、とにかく最初に相手(ベンチャー企業)の技術を見ようとする。その技術に見込みがあると判断した後に、初めて具体的なビジネスプランを考え始める。
一方で北米のベンチャー企業は、まったく逆だ。ビジネス主体で目標を立てていく。なぜなら、ベンチャー企業は絶対的に自分の技術に自信を持っている。そのため、最初からビジネスの話をしたいのだ。ベンチャー企業にとって、資金調達は最大といっていいくらいの課題なので、多くの場合、平たく言えば、どのくらい投資してくれるのかを話し合いたいのである。
このように順番が違うので、いざ提携しようと思ったら、日本サイドのビジネスプランが全然できていないケースも多い。その結果、いろいろな事がどんどん遅れていく。日本企業と北米ベンチャー企業の間に横たわる、この溝は、なかなかに大きい。
(4)日本企業は、スピードが遅い
上述したように、日本企業はまず技術を見たがるので、とにかくビジネスの話にたどり着くのが遅い。そうこうしているうちに、さっさと意思決定する企業に持っていかれてしまう。
また、たとえビジネスの話まで進んだとしても、日本は意思決定ができる人がミーティングに来ないことが多いので、なかなか話が前に進まないケースが多い。つまり、ミーティングの場でいろいろ決められない。事あるごとに「本社に持ち帰って検討します」となるので、ベンチャー側にしてみれば「え?」と戸惑うことになる。これが他国だと、多くの場合、決断のスピードがまったく違うのだ。決定権限のある人がミーティングに来て、どんどん話が決まっていくのである。
(こうしたスピードの遅さを解消する1つの方法としては、技術の評価とビジネスプランの作成を並行して走らせることが挙げられるが、これについては今後の連載で詳しく議論の機会を持ちたいと思っている。)
(5)案件に対する過度な期待
さらに、1件1件の案件に対する期待が大き過ぎて、結果、その期待が裏切られる(と感じてしまう)場合も多い。
新しいことをやろうとするとリスクが伴うのは当然のことである。ベンチャーキャピタル(VC)を例に取っても、投資した会社がいつもうまくいく、という可能性はそもそも低い。1000社の案件を見つけたとしよう。VCの場合、そのうち実際に投資をするのは約10社だ。それらの企業を同じように支援しても、このうち3〜4社は、立ちゆかなくなる。“金の成る木”に育ち、ホームランを放ってくれるのは、1〜2社あれば御の字なのだ。ベンチャー企業への投資においては、事業会社であってもそれをきちんと分かっておかなくてはならないだろう。
筆者が見てきて懸念を感じるのは、ベンチャーに寄せる日本企業の期待感が間違っている場合が多いということだ。日本企業の多くは、社内の研究開発プロジェクト同様、1社1社について結果を見ようとする。そのため、「A社に巨額の投資をしたのに全然実らない。A社の投資案件に関わった人間の責任だ」という、短絡的な評価を下してしまうのである。
事業会社も、ベンチャーに投資する時は、1つのベンチャーに全てをかけてしまうのではなく、「ポートフォリオ」という視点が大切だ。経営陣には、「ベンチャー企業に投資するというのは、うまくいかない確率の方が高い。しょせん、そういうものだ」と、期待度をうまくマネージしてほしいものである。
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