東北大学電気通信研究所の大野英男教授らによる研究グループは、不揮発性磁気メモリ「STT-MRAM(スピン移行トルク−磁気抵抗RAM)」の大容量化を可能とする磁気トンネル接合素子の新方式を提案し、動作実証に成功した。
東北大学電気通信研究所の大野英男教授や深見俊輔准教授、佐藤英夫准教授、陣内佛霖助教、渡部杏太博士後期課程学生らによる研究グループは2018年2月、不揮発性磁気メモリ「STT-MRAM(スピン移行トルク−磁気抵抗RAM)」の大容量化を可能とする磁気トンネル接合素子の新方式を提案し、動作実証に成功したと発表した。
大野氏らの研究グループはこれまで、「界面磁気異方性」を利用するCoFeB/MgO磁気トンネル接合を開発するなど、STT-MRAMの実用化につながる研究で成果を上げてきた。しかし、この材料系は微細化が進み、磁気トンネル接合素子のサイズが20nm以下になると、「情報の忘れにくさ」と「書き換えやすさ」を両立することが難しいという。
そこで今回は、磁石の形状に応じて磁化(S/N)の向きやすい方向(容易軸)が決まる「形状磁気異方性」を利用した磁気トンネル接合素子に注目した。磁気トンネル接合素子では、膜面垂直方向が磁化容易軸の場合に、高い熱安定性と低電流での磁化反転を両立させやすいという。形状磁気異方性を磁気トンネル接合に用いる場合は、縦長の構造を形成する必要がある。これは従来の界面磁気異方性を利用する磁気トンネル接合とは異なる構造となる。
研究グループは、形状磁気異方性を用いることで、素子サイズが10nm以下になっても高い熱安定性と電流誘起磁化反転を両立できる可能性があることを、モデル計算によって確認した。これに基づき、東北大学電気通信研究所附属ナノ・スピン実験施設の製造装置を利用して、直径が最小3.8nmの磁気トンネル接合素子をシリコン基板上に作製した。記録層にはFeB(鉄ボロン)合金を、トンネルバリアにはMgO(酸化マグネシウム)をそれぞれ用いた。
作製した素子の熱安定性指数を評価したところ、素子サイズが10nm以下であっても十分に満足できる80以上の値を得られることが分かった。素子に電流を印加し磁化反転の評価も行った。この結果、最小8.8nmの素子でも電流によって高抵抗状態と低抵抗状態が切り換わり、電流誘起磁化反転が行われていることを確認した。
形状磁気異方性は材料に依存しない普遍的な性質だという。このため、想定する用途に合わせた特性の材料を開発し適用すれば、目的に見合った磁気トンネル接合素子を作製することが可能となる。
研究グループによれば、今回の開発成果をベースに、新たな材料や素子、集積化技術を開発することで、記憶容量が現在の100倍となる100Gビット以上のワーキングメモリを実現することが可能になるという。
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