東北大学の研究グループは、原子層鉄系高温超電導体において、有効質量ゼロの「ディラック電子」を発見した。超高速・超電導ナノデバイスなどへの応用が期待される。
東北大学大学院理学研究科の中山耕輔助教と佐藤宇史教授、同大学材料科学高等研究所の高橋隆教授らによる研究グループは2018年1月10日、原子層鉄系高温超電導体において、有効質量ゼロの「ディラック電子」を発見したと発表した。超高速・超電導ナノデバイスなどへの応用が期待される。
デバイスの微細化を可能とする材料として、原子層薄膜が注目されている。その代表的な材料が、グラファイト(黒鉛)を1層にした「グラフェン」である。グラフェンにはディラック電子と呼ばれる特殊な電子が存在するため、極めて小さい電力で高速に動作するなどの特長がある。
研究グループは今回、原子層薄膜の1つで鉄系超電導体の1種である鉄セレン(FeSe)に注目した。FeSeはバルクの状態だと−265℃で超電導となるが、原子3個分の薄膜にすることができれば、液体窒素温度(−196℃)以上でも超電導となる可能性が、これまでの研究成果から分かっている。
そこで研究グループは、分子線エピタキシー法を用い原子レベルで制御した1層のFeSe薄膜を、酸化物の基板上に作製した。超高真空中で温度を精密に制御し、作製した薄膜を加熱することにより、性質が異なるFeSe原子層薄膜を作り分けることにも成功した。具体的には、高温加熱時に高温超電導が生じる薄膜と、低温加熱時には超電導を示さない薄膜である。
角度分解光電子分光法を用いて、作製した薄膜の電子状態を測定した。この結果、低温加熱時に超電導を示さない薄膜は、ディラック電子が存在することを確認した。2〜20層の多層膜についても同様に測定したところ、理想的なディラック電子系は1層の原子層薄膜のみで実現されていることが分かった。
これらの研究成果から、作製したFeSe原子層薄膜は、高温超電導に加え、ディラック電子系としての特長を併せ持つことが分かった。しかも、加熱温度を変えるだけの極めて簡便な手法で、性質が異なるFeSe原子層薄膜を作り分けできることも明らかにした。
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