東京大学と村田製作所の研究チームは、磁性体の磁化方向を活用して「ひずみの方向」を検出することに成功した。
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の太田進也大学院生と千葉大地准教授および、村田製作所の安藤陽シニアプリンシパルリサーチャーらによる研究チームは2018年2月9日、磁性体の磁化方向を活用して「ひずみの方向」を検出することに成功したと発表した。
一般的なひずみセンサーは、非磁性体を用い物体の変形を抵抗値で測定しその変化量により、ある方向に対して「ひずみの大きさ」を検出することができる。このため、物体の荷重や変異量、振動などの測定に用いられている。
これに対して研究チームは、「ひずみの向き」を電気的に検出するための研究を行った。これを実現するため、磁石に特有な性質である「磁気弾性効果」と、磁石の層と磁石ではない金属層を交互に積層した構造に、磁界を加えると電気抵抗が大きく変化する「巨大磁気抵抗効果」に着目した。
HDの読み出しヘッドに用いる磁界検出センサーや磁気抵抗メモリ(MRAM)には、磁石ではない層(スペーサー層)を、フリー層あるいはピン層と呼ばれる2つの金属層で挟み込んだ素子構造(スピンバルブ)が用いられている。フリー層は与える磁界が弱くても、磁化が磁界方向に追従する特性を持つ。ピン層は強い磁界を与えないと磁化方向は変化しない設計となっている。この構造では、フリー層とピン層における磁化の相対角度が180度に近いほど素子抵抗は大きくなるという。
研究チームは今回、柔らかいポリエチレンナフタレートフィルム上に、コバルト層と鉄・ニッケルの合金(パーマロイ)層で、銅の層を挟み込んだ構造の巨大磁気抵抗素子を作製した。各層は数ナノメートルの厚みである。フリー層となるコバルト層は引っ張られた方向に磁化が向きやすい。ピン層となるパーマロイ層の磁化はひずみに対して鈍感な特性を持つという。
研究チームは、試作した巨大磁気抵抗素子の評価も行った。ピン層の磁化方向に対して、加えるひずみの方向を0度から90度まで変化させたところ、代表的なスピンバルブ素子と同様の抵抗変化を示した。シミュレーションで得られた理論値ともほぼ一致する値が得られた。
研究チームによれば、スピンバルブ構造は集積化が容易である。フレキシブル基板上にひずみ方向検出用スピンバルブを並べて作りこめば、場所によって異なる局所的なひずみの方向を可視化することができるという。今後は、トンネル磁気抵抗効果を利用して抵抗変化率のさらなる向上を目指し、センサーとしての感度を高めていく計画である。
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