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東京大学ら、「ワイル磁性体」を初めて発見磁気メモリや熱電技術開発に期待

東京大学物性研究所の黒田健太助教らによる研究グループは、反強磁性体マンガン化合物の内部で、「磁気ワイル粒子」を世界で初めて発見した。

» 2017年09月28日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

外部磁場による制御で磁気ワイル粒子を自在に操作

 東京大学物性研究所の黒田健太助教や冨田崇弘研究員、近藤猛准教授、中辻知教授を中心とする研究グループは2017年9月、理化学研究所創発物性科学研究センターの有田亮太郎チームリーダーらの協力を得て、反強磁性体マンガン化合物(Mn3Sn)内部で、「磁気ワイル粒子」を世界で初めて発見したと発表した。これにより、Mn3Snがワイル粒子と磁性を併せ持つ「ワイル磁性体」であることが初めて実証された。

 ワイル粒子は質量がゼロの粒子である。2015年に固体の非磁性体物質であるヒ素化タンタル(TaAs)の中で、その存在が発見されたという。今回発見したワイル粒子は、これまでとは発現機構が全く異なるもので、物質の磁性によって創出されるため、「磁気ワイル粒子」と呼ぶことにした。

 マンガン(Mn)とスズ(Sn)の合金であるMn3Snは、カゴメ格子と呼ばれる結晶構造となり、正三角形の頂点となる位置にマンガン原子とそのスピンが配置されている。この時、隣り合うスピンには互いに反対方向に向こうとする力が働き、互いに120度傾いた状態で安定する。

Mn3Snの結晶構造と磁気構造 出典:東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構(JST)

 研究グループは今回、Mn3Snの中で磁気ワイル粒子の存在を初めて実証した。物質中のワイル粒子は、異なるカイラリティ(右巻き、左巻き)が対となって発生し、量子力学に基づく波動関数のトポロジーを起源として、それぞれN極とS極に相当する磁気モノポール(ワイル点)を形成するという。

ワイル粒子のエネルギーと運動量の関係の模式図 出典:東京大学、理化学研究所、JST

 Mn3Snはこれまで、巨大な磁気輸送現象や熱電効果が観測されてきた。しかし、その起源については解明されていなかった。今回の研究で、ワイル粒子による巨大な仮想磁場が、その発現機構に重要な役割を果たしていることが分かった。

 今回の発見は、Mn3Snが外部磁場による制御で磁気ワイル粒子を自在に操作できる「ワイル磁性体」であることも示した。ワイル磁性体に地磁気の20倍に相当する10mTの磁場を与えると、磁気ワイル粒子が作り出す100〜1000T相当の磁場を制御することが可能である。

 さらに、巨大な仮想磁場の源で磁気モノポールとなるワイル点は、フェルミレベルのごく近傍に形成されることが明らかとなった。磁気ワイル粒子が物質内に存在していれば、磁場と電流の向きが平行になった時にだけ電流が流れるなど、新しい量子機能を持った特異な物質特性を室温で発現させることに成功した。

左は磁場B//[2110]にかけた場合のMn3Snでのワイル点の位置と仮想磁場の向き、右は光電子分光で得られたエネルギーと運動量の関係と理論計算(白線) 出典:東京大学、理化学研究所、JST
磁性体でカイラル異常を観測した実証実験の結果 出典:東京大学、理化学研究所、JST

 研究グループは引き続き、Mn3Snに類似した物質の探索や元素置換による最適化を行い、さらに高い性能を持つワイル磁性体の開発に取り組む予定である。

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