東京工業大学の細野秀雄氏らは、溶液塗布による製造プロセスで高い電子移動度を持つ透明p型アモルファス半導体を開発した。正孔の移動度はn型アモルファス酸化物半導体「IGZO」に匹敵するという。
東京工業大学科学技術創成研究院の教授で元素戦略研究センター長を務める細野秀雄氏と、元素戦略研究センターの金正煥助教らによる研究グループは2018年2月、溶液塗布による製造プロセスで高い電子移動度を持つ透明p型アモルファス半導体を開発したと発表した。n型アモルファス酸化物半導体の「IGZO」に迫る移動度を達成しており、プラスチック基板上で透明pn接合を容易に形成することが可能となる。
細野氏らによる研究グループは、大きな電子移動度を持つ透明n型アモルファス半導体(TAOS)の設計指針などを1996年に発表した。この成果はIGZOの名称でディスプレイの駆動回路などに用いられている。ところが、p型アモルファス半導体では、正孔が動く価電子帯の上部が、主に陰イオンの占有軌道で構成されていることなどから、これまでの銅(Cu)イオンやスズ(Sn)イオン系では、高い移動度を実現することが難しかった。
研究グループは、イオン半径が最大200pmの「ヨウ素(I)イオン」に注目した。結晶のCuIは透明なp型半導体であり、多結晶薄膜の移動度が最大8cm2/Vsとなることはこれまで報告されている。そこで今回、CuIとSnI4を有機溶剤に溶かし、室温でスピンコートをして、透明かつ均質のアモルファス薄膜を形成した。正孔の移動度は6〜9cm2/Vsで、結晶薄膜と同等の数値を示した。
研究グループによれば、プラスチック基板上に透明アモルファス半導体を用いてpn接合を形成でき、曲がる電子回路を容易に実現することが可能になるという。また、物質設計指針を提示した。これに基づいて、移動度がより大きい透明p型アモルファス半導体を、さまざまな要素で構成することができるとみている。
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