では、コーポレートベンチャリングをもう少し深掘りしてみよう。
前述したように、ベンチャーキャピタルには、ディールフロー(案件の流れ)を通して、水面下の先端技術の情報がたくさん集まってくる。そうした情報は、数年たつと顕在化して世の中に知られるようになっていくのだが、それらの情報をいわば「データマイニング」することによって、いち早く世の中の今後の流れやトレンドを捉えることができる。
例えば、前述した「ベンチャーキャピタルの活動」の章で述べたように、ある期間に1000件のスタートアップ企業の情報が入ってくるとしよう。その100件の情報を見ると、技術の傾向やトレンドを読み取ることができる。実はその1000件というのは玉石混交、もっとはっきり言うなら、ほとんどは石ころだ。だがその中に、「玉」もあるかもしれない――。「金の成る木」と言ってもよいだろう。プロのベンチャーキャピタリストは、そのような「玉」を求めて、「金の成る木」に、投資をしていくわけだ。
しかし、これを事業会社の立場で見ると、次のようになる。1000件の案件のうち、投資をしなかった990件の中にも、戦略的には接点のあるベンチャー企業を見つけられる可能性も高い。
つまり、「新規事業のタネ」を見つけるという意味で、ベンチャーキャピタルのフレームワークを活用するのは非常に有効なのである。あとは、見つかった、これというベンチャー企業と技術ライセンス、共同開発、資本参加、場合によっては買収などを通して、そこから自社の新規事業に育てていくことになる。本来のベンチャーキャピタルはエグジットによりキャピタルゲインが出ればそれで成功といえるが、事業会社の場合はベンチャー企業との提携が新規事業構築の出発点となる。
さて、このようにベンチャーキャピタルのフレームワークを活用するコーポレートベンチャリングの方法には大きく分けて、2つある。
1つは、既存のベンチャーキャピタルに、リミテッドパートナー(LP)として投資する方法だ(LP投資という)。それによって、ベンチャーキャピタルに入ってくるディールフローにアクセスすることができる。
もう1つが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である。水面下の情報が集まるベンチャーキャピタルのようなフレームワークを、自社で作っていくことだ。
前者のLP投資は、専門家である、既存のベンチャーキャピタルに頼れるわけだが、後者のCVCは、自分たちでやらなければいけないので難易度は非常に高い。まず、“良質の案件”を手に入れる段階が、一筋縄ではいかない。これは、人脈によるところが大きいからだ。“案件”が入ってきても、質のいい案件でなければあまり意味がないのである。
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