半導体には新規製品でしか実現できない機能も多々あるが、過去製品の方が良いケースも多い(特に、電力や品質の面で優れている)。蔵出しされていない、優れたものもある。各メーカーの“蔵の中”を見てみたいものである。
いずれにしてもチップを開封しない限り、明らかにならないことばかりだ。弊社は、かたっぱしからジャンジャン開封し、現在、過去、さらに蔵出しされたものも、今後も白日の下にさらしていく予定である。
さて、2つ目の情報として「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ、ラズパイ)の下位モデルとして2016年に発売された「Raspberry Pi Zero」、2017年に発売された通信チップ搭載の「Raspberry Pi Zero W」の中身を紹介する。これら2シリーズには、ご存じのように、初代Raspberry Piのチップである「BCM2835」がそのまま使われている。ラズパイのチップは、モデルのバージョンアップに伴い「Raspberry Pi 2」では「BCM2836」、「Raspberry Pi 3」で「BCM2837」と、型名もカウントアップした。もちろん、CPU機能を中心にアップグレードされている。
通常の製品では、過去チップはそのまま消えていくケースが多いのだが、昨今のIoTブームによって、センサーハブやゲートウェイ向けの小型コンピュータ(非力でも可)の出番が広がっている。数年前の初代ラズパイに使われたBCM2835が復刻して、Raspberry Pi Zero Wなどに再度採用されているわけだ。通常、半導体チップは開発された年号をチップ上に刻印する。Raspberry Pi Zero、Raspberry Pi Zero Wは、2016〜2017年に発売された新しい製品にもかかわらず、ともに、2010年に開発された、古いチップが再利用されていることが分かる。数年の月日をへたチップが、新たな役割を与えられ、下位機能に使われるという典型的なケースだろう。
半導体の製品には、過去のものでも、現在も十分通用する製品、むしろ今だからこそ最適な仕様といえる製品もある。
蔵出し、復刻版、再利用……。言い方はさまざまだが、電力やコストを最適化するために、また、無駄な設計開発をせずに機能を実現するためにも、ユーザーもメーカーも過去の膨大な「アーカイブ」を、時にはのぞいてみてはいかがだろうか。
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ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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