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AIの活用方法について考える大山聡の業界スコープ(5)(1/2 ページ)

日系企業は海外企業に比べてAI対策が遅れているのではないか、という懸念も耳にする。だが、これは「懸念」などと言っている場合ではなく、筆者としては多くの日系企業に対して、「このままではマズイ」と本気で心配している。各企業がAIを活用する上で何を考えるべきか、独断的ではあるが整理してみたい。

» 2018年05月17日 11時30分 公開
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 人工知能(AI)関連技術の実用化が進んでいる今日、各企業は何を考えるべきか、AIの進化は今後の10年をどのように変えるのか、といった記事や議論を目にする頻度が非常に高まっている。そもそも日系企業は海外企業に比べてAI対策が遅れているのではないか、という懸念も耳にする。だが、これは「懸念」などと言っている場合ではなく、筆者としては多くの日系企業に対して、「このままではマズイ」と本気で心配している。ここでは、各企業がAIを活用する上で何を考えるべきか、独断的ではあるが整理してみたい。

具体化の妨げになる「概念語」

 やや古い話で恐縮だが、2000年ごろから「システムLSI」という言葉が日本国内で流行し始めた。ハイエンドのSoC(System on Chip)を指している場合もあれば、メモリ、ディスクリートを除くICの総称として使われる場合もあり、定義は非常に曖昧な単語であった。それまで主力としていたDRAM事業の継続が困難になった日系大手半導体メーカー数社は、DRAMに変わる戦略商品を必要としていた。それも早急に。稼働率の下がった半導体工場で何を生産するか、DRAM事業に関わっていた数千人の従業員をどうやって配置転換するか、一刻の猶予も許されなかった各社の経営陣たちは、「システムLSIを戦略商品として半導体事業を立て直す」という決定を下し、銀行をはじめとする金融機関にも協力を要請した。“メモリに比べて価格変動幅の小さいシステムLSI事業に注力し、ユビキタス市場を狙うーー”。当時の各社のIR資料では、各社ともこんな訳の分からない説明に終始していたのである。しかし当時のアナリストや投資家がこの説明を受け入れ、多くの銀行が支援を決定した事実を考えると、信じるしかない、支援するしかない、という雰囲気があったことは否めない。

 今にして思えば「システムLSI」も「ユビキタス」も実態のない概念的な言葉で、半導体メーカー側としては「いかにも現実的」な戦略に見せるのが精一杯だったはずだ。

写真:アフロ

 ところでこの「ユビキタス」という言葉、いつでもどこでもネットに接続できる、という概念を指していたが、スマートフォンが商品化されてからはほとんど使われなくなったことに気が付く。つまり、概念的な言葉は具体的な対象が現れれば不要になる、と言ってよいだろう。では、システムLSIを製品戦略に掲げた日系半導体メーカーは、それをスマートフォンに売り込むことができたのか。残念ながら実績は皆無だ。概念はあくまでも概念で、具体化できなければビジネスにはならない。狙うべき市場、そのための商品戦略、これらを具体化していく過程でさまざまな課題に直面し、1つ1つをクリアするという地道な作業を避けて通ることなどできないのだ。「わが社のシステムLSIとはどうあるべきか、何を武器に、どんな市場を狙うべきか」。このような議論を、各社は内部で十分に行っていたのだろうか。結果を見る限り、十分な議論ができていた日系企業は1社もないと思われる。

 本連載の前回前々回で、「Gの世界とLの世界」について触れさせていただいた時に「グローバル」という言葉を何度か用いたが、これも多くの日系企業が好んで使う「概念語」だ。グローバル企業を目指す、グローバル戦略を推進する、グローバルな市場を狙うなどなど、いったい何を具体的にどうするのか、肝心な議論が不十分なまま「グローバル」を念仏のように唱えても、効果は期待できない。「システムLSI」「ユビキタス」「グローバル」などの概念的な言葉を社内で多用すると、中身の伴わない議論の応酬で時間を浪費する危険性があるので、具体化の妨げになる、というのが筆者の持論だ。言い方は悪いが、概念的な言葉は社外向けに何かを隠したり誤魔化したりするために悪用する、くらいのつもりで割り切って使うべきではないだろうか。

 そして今回のテーマでもある「AI」だが、この言葉も多くの日系企業が概念的に多用している様子が見て取れる。概念で話が止まっているせいか、各社のメッセージに具体性が乏しい。米国企業を中心に、具体的なAI関連商品やサービスが市場に投入されている現状を考えると、このままでは差が広がる一方ではないだろうか。

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