まず、AI関連の商品やサービスを提供する立場の企業についてだ。AI関連で最⾼峰とされる国際学会では、GoogleやMicrosoft、カーネギーメロン⼤学、マサチューセッツ⼯科⼤学、スタンフォード⼤学、カリフォルニア⼤学バークレー校といった⽶国勢が論⽂採択数で他を圧倒している。この指標で見ると、⽇本の出遅れは否めない状況にあるが、百歩譲ってここは目をつぶりたい。筆者としては、日系大手IT企業がその中から使えそうな技術を拾い出してでも、どんな商品やサービスを提供してくれるのか、と言う点に着目したいのだが、NEC、富士通、日立製作所、NTTデータといった大手各社のAI関連戦略から強いメッセージは感じ取れない。失礼を承知で申し上げれば、これらの日系大手IT各社は「AIを駆使してこんなサービスを実現したい」とか「10年後には世界をこんなふうに変えてみたい」といった議論を社内外で十分に行っていないのではないか、と心配になるのである。まさか、「その辺は米系IT企業の領域」などと諦めているのではないとは思うが、富士通といえばこんなAI、NECといえばあんなAI、みたいな強いメッセージを発信していただきたい、と切に願っている。
次に、AIを活用する立場の企業について。優先順位や難易度の高低はあるにせよ、われわれが日常的に関連している業務の大半にAIが何らかの形で導入される、と見て間違いないだろう。「ウチは関係ない」などという企業がいたとしたら、恐らくその企業はPCすら導入していないに違いない。ルーチン化された作業、プログラミング可能な作業は、疲れやすく間違いを犯しやすい人間よりAIに任せるべきで、その領域は今後どんどん広がることが予想される。現在世の中にどのようなAI商品や技術が存在するのか、社内のどの作業からAIに置き換えていくべきか、といったことを推進するための部署がどの企業にも必要になるのは時間の問題だろう。
では、そのようなAI活用を推進する人材をどうやって育てるのか。AIを普及させるためには、技術やサービスを提供する側だけでなく、活用する側にもAIに精通した人材が必要で、その育成方法についても早急な手段が必要である。日本国内でも、「⽇本ディープラーニング協会」(Japan Deep Learning Association:JDLA)が2016年7月に設立され、AI活用を推進するスキルを認定するG(ジェネラリスト)検定の認定試験を実施している。この協会では、AIシステム開発に相当するスキルを認定するE(エンジニア)資格の認定試験も計画中という。極めて理にかなった動きに見えるが、この協会の正会員、賛助会員の中に、前述の日系大手IT企業の名前がなく、体制としてはちぐはぐな印象が拭えない。
もし筆者がAI活用を検討中の企業経営者なら、このような協会の活動を利用しながら「AI推進者」を社内で育成し、AIを活用できそうな部署や業務を列挙させて、AI導入による具体的な費用対効果を検討したいところだ。そのとき、日系大手IT各社に何を期待できるだろうか。各社にもさまざまな事情はあるだろうが、やはりAI活用のための人材育成から積極的に関与することが重要なはずである。ヤマハが⾃社のピアノやオルガンの販売促進を目的として⾳楽教室などの教育活動にも⼒を⼊れているように、「貴社の⼈材育成を⼿伝いますから、われわれのITシステムを導⼊してください」といった販売戦略があってもよいと思う。「AI」を単なる概念でなく、具体的な戦略として顧客に浸透させることこそ、IT企業各社の使命でありビジネスチャンスなのだから。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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