データの書き換え特性に絞ってもう少し詳しく説明しよう。データを書き換える速度に対する要求はeMRAM-Sが高く、eMRAM-Fが低い。そしてデータの書き換えサイクル寿命(書き換え回数)に対する要求はeMRAM-Sが長く、eMRAM-Fが短い。つまり、書き換え特性に関しては、SRAMの置き換えを狙うeMRAM-Sに対する要求が、eMRAM-Fに比べると大幅に高い水準にある。
この違いは本来、揮発性メモリと不揮発性メモリではデータ書き換えの性能が本質的に異なることに由来する。揮発性メモリであるDRAMとSRAMはデータを高速に書き換えられるとともに、データの書き換えサイクル寿命は1015回以上と極めて長い。実用的には、書き換えサイクル寿命を意識しない(無限に書き換えられるとする)のが、DRAMとSRAMに対する考え方だ。
これに対して不揮発性メモリでは必ず、データの書き換えサイクル回数に制限が加わる。不揮発性、すなわち電源を切ってもデータを保持する特性は本来、データの書き換えとは相反する性質であるからだ。書き換えにくいという性質は、書き換え速度の低下と、書き換え回数の制限をもたらす。急速にデータを書き換えることは原理的に難しく、データの書き換えの繰り返しがメモリを劣化させる。
同じ埋め込みMRAMでも、フラッシュメモリの置き換えを想定したeMRAM-Fは、フラッシュメモリの書き換えが低速であるために、書き換え速度の要求も、アクセス時間で数百ナノ秒と比較的低い水準にとどまっている。そして埋め込みフラッシュメモリのデータ書き換えサイクル寿命は10万回と、あまり多くない。このため、書き換えサイクル寿命に関しても、eMRAM-Fに対する要求は100万回とそれほど厳しくない。そしてフラッシュメモリと同様に、10年間と長いデータ保持期間を保証する。
一方、揮発性メモリであるSRAMの置き換えを想定したeMRAM-Sは、書き換え特性に対する要求が極めて厳しい。書き込みアクセス時間は数十ナノ秒、書き換えサイクル寿命は1014回である。書き換え特性を優先するので、データ保持特性は犠牲にならざるを得ない。データを書き換え易いということは、データが反転しやすいということでもあるからだ。このため、eMRAM-Sは不揮発性メモリではあるものの、データ保持期間は1カ月程度と非常に短くなる。
(次回に続く)
⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.