埋め込みフラッシュメモリの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-F)と、埋め込みSRAMの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-S)が、IoT(モノのインターネット)や自動車で使われる場合、どういった仕様が要求されるのか。データの書き換え特性を中心に解説する。
半導体デバイス技術に関する国際会議「IEDM」では、カンファレンスの前日に「ショートコース(Short Course)」と呼ぶ1日間のセミナーを開催している。2017年12月に開催されたIEDMでは、「Memories for the future: device, technologies, and architecture(将来に向けたメモリデバイスの技術とアーキテクチャ)」と題したショートコースが開催された。このショートコースでは6本の技術講座が午前から午後にかけて実施された。
その中から、埋め込みメモリ技術(CMOSロジックとメモリを同じシリコンダイに混載する技術)に関する講座「Embedded MRAM Technology for IoT & Automotive(IoTと自動車に向けた埋め込みMRAM技術)」が興味深かったので、その概要をシリーズでお届けしている。講演者はシリコンファウンダリー(半導体製造請け負いサービス企業)大手のGLOBALFOUNDRIESでeNVMフェローをつとめるDanny P. Shum氏である。
なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前回は、GLOBALFOUNDRIESが提供する埋め込みMRAMマクロの概要を解説した。埋め込みMRAMは2種類のバージョンがあり、埋め込みフラッシュメモリの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-F)と、埋め込みSRAMの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-S)に分かれる。
同社が開発スケジュールを明らかにしているのは、埋め込みフラッシュメモリの置き換えを想定したMRAM(eMRAM-F)である。本シリーズの第2回「微細化限界に達したフラッシュをMRAMで置き換え」で説明したように、民生用/産業用のeMRAM-Fを2018年に、自動車用(グレード1)のeMRAM-Fを2020年に提供する予定となっている。前回で触れたように、いずれも22nm世代のFD-SOIとプレーナFETのCMOSプラットフォームで製造する。民生用/産業用のeMRAM-Fが狙う具体的な用途は、IoT(モノのインターネット)端末のマイコン(マイクロコントローラー)やSoC(System on a Chip)などである。
IoTや自動車などの用途がeMRAM-Fに要求する仕様は、それなりに厳しい。確実なデータ書き込みと確実なデータ読み出しは当然のことだ。データ書き込みでは、記憶素子(磁気トンネル接合)のスイッチング特性(磁化反転特性)のばらつきを抑えることが求められる。データ読み出しでは、磁気抵抗の比率が大きいことと、それぞれの抵抗値の均一性が高いことが要求される。
そして10年といった長い期間にわたってデータを保持するためには、高いエネルギー障壁と、エネルギー障壁のばらつきが少ないことが求められる。また100万回〜1億回といった書き換えサイクル寿命を達成するためには、磁気トンネル接合のトンネル絶縁膜の絶縁破壊電圧を一定以上に維持するとともに、絶縁破壊電圧のばらつきを抑えることが要求される。
さらに、プログラムコードをeMRAMに書き込んでからプリント基板にマイコンあるいはSoCを実装する場合は、はんだ付けによる260℃の高温処理に耐えなければならない。
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