“F1の電気自動車バージョン”ともいわれるFormula Eは現在、シーズン4(2017年/2018年シーズン)の真っただ中だ。シーズン4は2017年12月に香港で始まり、2018年6月10日には、第10戦がABBの本拠地であるチューリッヒで開催された。
Formula Eのレーシングカーでは、バッテリー管理やモーター制御など、半導体ICの役割が重要になることもあり、Formula Eに着目している半導体メーカーもある。例えばQualcommは、2013年のシーズン1からFormula Eと技術提携を結び、ワイヤレス給電技術を提供している。ロームは、シーズン4に参戦するモナコの自動車メーカーVENTURI AutomobilesのフォーミュラEチームとテクノロジーパートナーシップを締結し、レースカーのインバーターに使われるSiC(シリコンカーバイド)パワーデバイスを提供。さらに、ルネサス エレクトロニクスも2017年11月に、インドのEVメーカーMahindra & Mahindraのテクノロジーパートナーとなったことを発表している。
Spiesshofer氏は、「Formula Eのレースカーには、パワーエレクトロニクスやエネルギーマネジメントの技術が欠かせない。まさに、われわれが強みを持つ分野だ」と述べる。ただし、タイトルスポンサーであるABBは、Formula Eに参戦するチームやドライバーを個別にサポートするわけではない。また、Spiesshofer氏は、「ABBが事業として注力するのはあくまで公共のモビリティであって、乗用車など個人向けのモビリティ市場に参入する考えはない」と言い切る。
「Formula Eは、電動化とデジタル技術、その2つが融合する場所だ。テクノロジーに何ができるのか、Formula Eはそれを示す絶好のチャンスだろう」(Spiesshofer氏)
なお、ABBは、設立30周年を記念して、30台のEV用急速充電システムをチューリッヒに寄贈している。
ABB Technology Forumには、Formula Eの創設者兼CEOであるAlejandro Agag氏も登壇。Formula Eのこれまでの歴史を紹介した。
「EVによる国際的なレース」というコンセプトは、FIA(国際自動車連盟)のプレジデントであるJean Todt(ジャン・トッド)氏によって提唱された。持続可能なモビリティとしてのEVのポテンシャルを示すためである。それに賛同したAgag氏はFormula Eを設立。当初は、レーシングカーがなかなか完成せず、あわや開催中止か、といったところまで追い詰められたが、トラブルを乗り切り、2014年9月には無事にシーズン1の開催にこぎ着けたという。
Agag氏は「スタートしてたった4〜5年でこれほどの進化を遂げているレースは他にない」と語る。Agag氏の興味は目下のところ、次世代マシンだ。現在のマシンはシャシーがワンメイクで、パワートレインは各チームが自由に製造できる。Formula Eは2018年1月に、シーズン5(2018年/2019年シーズン)に使用する第2世代マシンの画像を公開した。バッテリーのメーカーが変わり、容量が大きくなる。現在は、バッテリーの容量の都合で、ドライバーがレース中にマシンを乗り換えているが、シーズン5からは、この乗り換えがなくなる。各チームにとっては、バッテリーマネジメントの向上をはじめ、どれだけ効率のよいマシンを製造できるかも鍵になるだろう。
Agag氏は、「Formula Eのレースは、サーカスのようなもの。特に若い世代の心をつかむために、“エキサイティングで楽しいショー”であることが重要だ。第3世代のマシンについても、ブラッシュアップしていく必要がある」と語った。
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