東京大学は、ノイズが極めて小さい有機トランジスタを作製することに成功した。安価で高感度のセンサーデバイス開発が可能となる。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の渡邉峻一郎特任准教授と竹谷純一教授らの研究グループは2018年7月、ノイズが極めて小さい有機トランジスタを作製することに成功したと発表した。IoT(モノのインターネット)社会を支える、安価で高感度のセンサーデバイスを実現する技術として注目されそうだ。
有機半導体を用いたトランジスタやセンサーデバイスは、印刷プロセスで大量かつ安価に製造できるのが特長である。このため、次世代の電子材料として注目されている。既に移動度が10cm2V-1s-1を超える有機トランジスタなども開発されている。こうした中で、動作性能に影響するわずかな電流の揺らぎ(ノイズ)への対応が課題となっていた。
そこで研究グループは、有機トランジスタでノイズの原因となるトラップ密度を、高い感度で定量化する技術を開発した。その上でノイズ発生のメカニズム解明と抑制技術の開発などに取り組んだ。
まず、電流値のわずかな揺らぎを精密計測するため、計測機器の配線や環境からの外乱による影響を排除できる計測系を構築した。さらに、温度可変クライオスタットにも接続できるようにして、200K(約−70℃)までの低温測定を行い、電荷伝導機構とノイズレベルの相関を求められるようにした。
有機半導体には、不純物が極めて少ないC8-DNBDT-NWを用いた。有機溶媒に溶かしたインクを調整し、基板上に塗布することで2次元有機単結晶薄膜を形成。その上に、ソースとドレインの電極を配置し、移動度が10cm2V-1s-1を超える有機トランジスタを作製した。新たに開発した計測系を用いて、試作した素子の性能を計測し、周波数に対するノイズに変換して評価した。
これまで、有機トランジスタにおいてノイズの原因は、不純物や構造欠陥、結晶粒界によるエネルギー障壁の深いトラップだとみられてきた。今回、アモルファスから単結晶まで、結晶性の異なる材料を用いた有機トランジスタを作製し、結晶性とノイズの相関を系統的に調べた。特に、有機単結晶材料に関して、ノイズの精密計測を実施したのは今回が初めてという。
これらの実験から、ノイズ発生の要因が、エネルギー障壁の深いトラップだけではないことが分かった。有機半導体を構成する有機半導体とゲート絶縁体の界面に存在するわずかなポテンシャルの乱れなどに起因する、エネルギー障壁の浅いトラップからもノイズが発生していることを突き止めた。
研究グループは、解析手法を改良して、トラップの分布(トラップ密度)を定量化することにも成功した。開発したノイズの計測系と解析手法を用いると、約10秒間でトラップ密度を高感度に計測することが可能だという。従来のように、特殊な分光手法を用いる必要はない。
これらの成果を踏まえて、印刷可能な半導体のノイズレベルを測定し比較した。アモルファス、多結晶、単結晶と結晶性が向上するにつれて、ノイズは低下することが分かった。特に、研究グループがこれまで提案してきたC8-DNBDT-NWの単結晶は、塗布型の酸化物半導体「IZO:Indium Zinc Oxide」と同等の移動度を実現しつつ、極めて低いノイズレベルを達成していることが明らかとなった。
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