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誰がドライエッチング技術を発明したのか湯之上隆のナノフォーカス(2) ドライエッチング技術のイノベーション史(2)(1/5 ページ)

前回に引き続き、ドライエッチング技術におけるイノベーションの歴史を取り上げる。今回は、ドライエッチング技術の開発を語る上で欠かせない、重要な人物たちと、彼らが発明した技術を紹介する。

» 2018年09月28日 11時30分 公開

ドライエッチングの技術史を探る

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 ドライエッチング装置市場は、露光装置市場を抜いて、2017年には107億ドルの最大市場となった。また、ドライエッチング技術を駆使したマルチパターニングにより、ArF液浸の解像限界38nmを超えて、10〜7nmの微細パターンの形成が実現している。

 過去、微細加工の花形はリソグラフィ技術だったが、今や、装置の市場規模においても、微細化への貢献においても、ドライエッチング技術が主役に躍り出たと言えよう。

 では、そのドライエッチング技術を発明したのは誰か? 本稿では、主として米国特許および論文の検索により、以下の3段階で、その発明者を明らかにする。

  1. プラズマを用いたレジスト除去(アッシング)装置を発明したのは誰か
  2. プラズマを用いたエッチング技術を発明したのは誰か
  3. プラズマを用いたイオンアシスト反応により、異方性加工の基礎となったドライエッチング技術(つまりRIE)を発明したのは誰か

1. プラズマを用いたアッシング装置を発明したのは誰か

 プラズマを用いたアッシング装置を発明したのは、Laboratory for Electronics(以下、LFE)のRichard L. Bersinである。Bersinは、1966年2月1日に、“Gas Reaction Apparatus”(US 3,410,776)を出願した。特許の明細書には、「反応セルの周囲にコイルを巻き、高周波を印加して酸素などのガスをイオン化し、分析対象材料を効率よく分解する」と記載されている。しかし、この技術の用途は、書かれていなかった。

 2年後の1968年8月19日にBersinは、International Plasma Corp.から3件の特許を出願している。その中の一つ“Method and Apparatus for Ashing Organic Substance”(US 3,671,195(A))に、「有機物をアッシングする」という記載がある。

 この特許の用途は、酸素プラズマを用いて有機物を燃焼し、残留する無機物を分析することだった。酸素プラズマを用いる目的は燃焼の高速化で、対象物はヒトの細胞、タバコおよびプラスチックなど多岐にわたっていたが、半導体のプロセスには言及していなかった。

 しかし、Bersinが発明したアッシング装置がきっかけとなって、半導体プロセスにプラズマを用いたエッチングを使う発明が誕生することになる。

2. プラズマを用いたエッチング技術を発明したのは誰か

2-1)世界初のプラズマによるエッチングの発明

 Signetics Corp.のStephen M. Irving、Kyle E. LemonsおよびGeorge E. Bobosは、1969年3月27日に、“Gas Plasma Vapor Etching Process”という特許を出願した(US 3,615,956)。この特許が、世界で初めてプラズマを用いたエッチングの発明となった。

 Irvingらは、LFEからBersinが発明したプラズマ装置を導入した(図1)。

図1:LFE Corporation - 501 Chrome Etch System(Bersinが発明したプラズマアッシング装置)

 これは、“The Chip History Center”というWebサイトの“LFE Corporation - 501 Chrome Etch System”のページに、以下の記述があることから明らかになった。

“When Steve Irving began to experiment with the first plasma etchers at Signetics in the late 1960s, the Tracerlab division of LFE was the company he turned to for equipment.”

 Irvingらは、Bersinが発明したLFEの装置を用いて、まず、酸素プラズマでレジストをアッシングするプロセスを考え出した。特許明細書によれば、その装置の構造は図2の通りである。

図2:Signetics社のIrvingらが発明したプラズマ装置(クリックで拡大)

 次に、酸素に加えてフッ素や塩素などのハロゲンガスを添加したプラズマにより、Siがエッチングできることを発明した。明細書には、「プラズマ中の活性種、または励起分子がSiと反応し、揮発性のハロゲン化物を形成して、真空ポンプで排気される」という一文があり、プラズマによるエッチングの基本メカニズムが正しく考察されている。

 恐らくIrvingらは、酸素プラズマで有機物をCO2やH2Oに酸化できるのであれば、ハロゲンプラズマでSiをSiF4やSiCl4に酸化できると考えたに違いない。

 さらに、Irvingらの特許には、塩素プラズマによるアルミニウム(Al)のエッチングも記載されている。実際の結果は示されていないことから、アイデアを書いているにすぎないが、塩素プラズマでAlがエッチングできることを予見したのは、驚くべき連想能力といえる。

 そして、このようなIrvingらの発想は、プラズマによる半導体のエッチングを大きく飛躍させる歴史的な転換点になったと思われる。

 面白いのは、Irvingらが、プラズマエッチングで解決したいと考えていたのは、実はダイシングの問題だったことである。当時、ダイヤモンドでスクライブラインを引いた後、ウエハを破断していた。だが、破断に伴って欠陥を生じ、またSiの微粒子が飛散して歩留まりが低下する。この問題は、ウエハーの大口径化に伴って厚みが増すことにより、さらに深刻になる。そこでダイヤモンドスクライブに替わる方法が必要だったのである。

 ところが、Irvingらが発明したプラズマエッチングは、当初の目的のスクライブ技術よりも、将来、半導体の微細加工の主役となるドライエッチング技術を生み出すことに大きく貢献するのである。

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