3-1)日電バリアンの発明
プラズマエッチングの発明によって危険な薬液を用いるウエットエッチングからは解放されたが、ムーアの法則を実現するための微細加工への対応は十分ではなかった。バレル型装置を用いるプラズマエッチングは、ウエットエッチングと同様に等方性エッチングであり、より微細なパタンの形成のためには、異方性エッチングの実現が必要だったからだ。
この課題に対して、イオンを用いるスパッタエッチングが検討されていたが、エッチング速度があまりにも遅すぎた。従って、高速で異方性加工が可能なエッチングの実現が待ち望まれていた。
そして、その解決策を見いだしたのは、日本電気(現NEC)傘下の日電バリアンに所属していた細川直吉と松崎励作だった。細川らは、図4に示す平行平板型のスパッタ装置に、Arおよびフッ化ハロゲン化炭化水素ガスを導入して、さまざまな材料のエッチングを行った。その結果、表1に示すように、各材料において、フッ化ハロゲン化炭化水素ガスを使った場合のエッチング速度は、Ar単独のスパッタエッチングに比較して、数倍から十数倍に増大したのである。
エッチングが高速になる原理は次の通りである。図4の装置でフッ化ハロゲン化炭化水素ガスを用いた場合、ウエハが高周波電源に接続されて電極になっており、発生したイオンが電界で加速されてウエハに入射し、化学反応を起こす。すなわち、イオンアシスト反応が起きることにより、高速エッチングが実現したのである。
細川らは、このエッチングを、リアクティブ・イオン・スパッタリング(RIS)と呼んだ。そして、1973年8月11日(米国1974年8月8日)に、“Sputter-Etching Method Employing Fluorohalogenohydro caobon Etching Gas and a Planar Electrode for a Glow Discharge”という特許を出願した(US 3,984,301)。
しかし残念なことに、細川らが特許出願をするときに、平行平板型プラズマCVD装置が公知だったため、装置では特許を取得できず、権利化できるものはガスしかなかった。そして、ガスをフッ化ハロゲン化炭化水素に限定してしまったことが非常に悔やまれる。
結果論だが、Alエッチングガスとして広く使われたCCl4および、現在も使用されているBCl3は、それぞれ、IBMおよび、Northern Telecomが特許を取得した。つまり、日電バリアンは、ドライエッチングの技術史上、極めて重要な発明をしたが、特許では的を外したのである。なぜ的を外したのかについては次号(第3回)で考察する。
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