第4世代まで進化したHD-PLCだが、日本において屋外利用の普及や工場内ネットワークとしての活用を目指すにあたり避けて通ることのできない課題がある。その課題とは、電波法で定める送電網(分電盤より給電側)と三相三線方式の高速PLC利用に関連する法改正が出来ていないことだ。
この課題に対して、パナソニックではHD-PLCの社会実装を進める各種実証を実施するが、九州工業大学との産学連携による学術的な面から動きを進めている。この産学連携は2017年11月から2020年10月までを契約期間とし、「IoTシステム実装の要素技術」を研究することを目的とした共同研究講座を開設した。
同講座では、パナソニックから出向し同大学の特任教授となった福本幸弘氏、准教授の松嶋徹氏、客員教授の桑原伸夫氏を指導教員とした福本・松嶋研究室を運営。同研究室では、高速PLCを屋外と三相三線で利用するための法整備に必要なノイズデータ収集と低ノイズ化手法の開発、そして同じくEMCが重要となる車載イーサネットの高信頼化技術に関して研究を行っている。また、EMC関連テーマの研究以外にも同講座では、パナソニックの共創ロボットを活用した研究や人材育成と交流の活動を行っている。
「PLCの社会実装を進めるにあたって、技術的な課題はほとんどEMCとなる」と福本氏は語る。PLCは「通信線ではない電力線に通信を流す」(福本氏)ため、「極端に言うとアンテナに信号を流すように外部にノイズを放射してしまう」という。2006年10月に高速PLCの屋内利用が認可されたときは「当時、桑原先生のところにパナソニックから社会人ドクターが行き、産学連携でさまざまなデータを収集することで認可に必要なエビデンスを示した」といい、PLCに関する学術的な知見もこのタイミングで把握することができたという。
三相三線における高速PLC利用の規制緩和を目指すために、福本氏は「三相でどのようにノイズが発生するかを再度見ていかないといけない」とする。「三相三線でどのように電気特性やノイズ特性を計測すればよいか、どのような回路特性の計測用冶具が必要で、どのように三線を計測器につなげばよいか」(福本氏)といった学術的思考や研究開発が必要だとして、「データの取得、解析、考察などをアカデミックに行い、しっかりとしたエビデンスを総務省に提供できるようにしたい」と産学連携の意義を語った。
現在、屋内三相三線における高速PLC規制緩和に向けて「総務省のワーキングループ(情報通信審議会 電波利用環境委員会 高速電力線搬送通信設備作業班)で2018年度中に答申してもらえるよう、われわれは(エビデンスとして用いる)データ取得と解析法の検討、事業部門がその知見に基づいたデータの収集を行っている」(福本氏)段階だとする。
また、屋外となる引込線や架空線(送電系統)への高速PLC活用に向けた動きも進めており、「引込線には次年度(2019年度)に取り組む。そして架空線は電力会社の所有物ということやEMC対策面でも難易度が高く、実現にはかなり高いハードルとなるが基礎研究は開始している」(福本氏)と今後の取り組みを語った。
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