既設の電力線でデータ通信も行う技術、「電力線通信(PLC)」。パナソニックはPLCの普及を推し進める企業として精力的に事業展開を行っており、同社発の技術「HD-PLC」が国際規格(IEEE 1901)として標準化された。スマートメーターへの採用など、同技術の注目が高まりつつある中、開発のけん引役であるパナソニックからHD-PLCの技術の現在地を聞いた。
既設の電力線でデータ通信も行う技術、「電力線通信(PLC)」。
その歴史は古く、日本を含めた各国で盛んに研究開発が進められている。各種の文献をひもとくと、日本では1980年代からPLCに注目の高まった時期が数回起こり、その普及が期待された。しかし、どのブームもPLCを日本で普及させるには至らなかった。その原因は、当時のPLCは技術的に未成熟であったこと、そして無線通信など代替技術が生まれ、PLCのアプリケーションとして挙げられた分野でニーズが薄れたことだとされる。
一方で、IoT(モノのインターネット)の社会浸透が進む現在、無線では実現できない広域接続と安定した通信をウリとして、PLCは再び活躍の場を得ている。
このような市場環境で、パナソニックはPLCの普及を推し進める企業として精力的に事業展開を行っている。同社が提唱する高速PLC通信方式「HD-PLC」は、国際規格(IEEE 1901)として標準化。2018年6月には、第4世代まで進化したHD-PLCがベースラインとして、次世代国際標準(IEEE P1901.3)のワーキングドラフトとして承認された。
また、台湾の電気事業者である台湾電力は2018年9月25日、スマートメーターの通信方式としてHD-PLCを採用したことを発表した。同技術の注目が高まりつつある中、開発のけん引役であるパナソニックからHD-PLCの現在地を聞いた。
HD-PLCは、既設の電力線や同軸ケーブルに流れる電力もしくは信号に、2M〜30MHzの高周波信号を重畳しデータ通信を行う高速PLC規格の1つ。既設線を用いるため配線工事が不要で、PLCアダプターをコンセントもしく線端に設置することで通信を実現する。同規格は物理速度が240Mビット/秒(bps)で、信号変換にWavelet OFDM(直交周波数分割多重方式)を採用したことによる低消費電力化、そしてマルチホップ対応による数キロ程度の長距離通信化が特長だ。
Wavelet OFDMは、FFT OFDMなどの他規格で用いられる変調方式と比較して、演算量を9分の5に、メモリ使用量を8分の1に削減することができる。また、特定の周波数域で出力を抑制する「ノッチ挿入」も、外部フィルター無しで−35dBと大きく、かつ周波数帯をプログラマブルに設定できるため、周波数利用効率が非常に高い。
「『PLCが(同周波数帯を用いる)アマチュア無線へ影響を与えている』との懸念を持つ人も多い。HD-PLCでは、アマチュア無線への影響を避けるため自主的にノッチを挿入している。OFDMなのでサブキャリアが密に存在しているが、Wavelet変換を利用しているため、サブキャリアを2本抜くだけで−35dBのノッチが形成できる」(パナソニック)
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