東京大学と大阪大学らの研究グループは、膨張させるとスピンの空間配列が「らせん状」にねじれるコバルト酸化物を発見した。
東京大学と大阪大学らの研究グループは2018年10月、膨張させるとスピンの空間配列が「らせん状」にねじれるコバルト酸化物を発見したと発表した。圧力によるスピンの制御や圧力センサーへの応用が可能とみられる。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の石渡晋太郎准教授と大阪大学大学院理学研究科の酒井英明准教授らによるものである。
スピンがらせん状に配列した「らせん磁性体」は、スピンのねじれ方を情報として活用できる可能性がある。らせん磁性体は、HDなどに用いられている従来の強磁性体に比べて、制御用の電流が極めて小さい。ところが、らせん磁性は特異な結晶構造を有する磁性体でまれに観測されるのみで、発現させるための設計指針などはこれまで確立されていなかった。
研究グループは今回、「立方晶ペロブスカイト型構造をもつSrFeO3が、らせん磁性を示すこと」「同じ構造のSrCoO3がコバルト酸化物として、室温強磁性を示すこと」に着目した。この要因は4価の鉄・コバルトイオンと酸素イオン間の強い化学結合を反映したものだといわれている。実際にSrFeO3の「Sr」について、その一部を「Ba」に置換して鉄と酸素の結合長を引き伸ばすと、らせん状のスピン配列におけるねじれ方は、大きく変化することが報告されている。
このため研究グループは、SrCoO3を用いて元素置換を行い、コバルトと酸素の結合長を引き伸ばすことにした。ところが、「大型単結晶の育成が困難」で、「Ba置換体Sr1-xBaxCoO3の合成が難しい」ことが分かった。
そこで研究グループはまず、大気中で安定している3価のコバルトイオンを内包する酸素欠損ペロブスカイトSr1-xBaxCoO2.5の大型単結晶をフローティングゾーン法で育成。これを8万気圧という超高圧下で、低温酸素アニール処理を行い、Sr1-xBaxCoO3(0<x<0.5)の大型単結晶を得ることに成功した。
この大型単結晶に対して、X線回折測定や、東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設のパルス強磁場などを用いて磁化測定を行った。この結果、コバルト−酸素間の結合距離が約1%増大しただけで、室温強磁性相が新たな磁性相に変化することを見いだした。
さらに、スイスのポール・シェラー研究所に設置された大型中性子施設を利用し、新たな磁性を示す単結晶試料の中性子散乱実験を実施。東北大学の是常隆准教授と理化学研究所創発物性研究センターの有田亮太郎チームリーダーらは第一原理計算を行った。これらの結果からも、この磁性相はらせん磁性相であることが確認されたという。
研究グループは、「研究で得られたSr1-xBaxCoO3は、薄膜基板上での単結晶成長に適したシンプルな立方晶ペロブスカイト型構造であり、酸化物スピントロニクスへの応用が期待できる」とみている。さらに、結晶格子の増大による強磁性−らせん磁性転移を、負の化学圧力による磁性スイッチングと見なせば、「新たな圧力センサーや磁気アクチュエーターへの応用につながる」という。
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