東京大学物性研究所らの研究グループは、室温環境で巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)を示す磁性金属の開発に成功した。その効果はこれまでの10倍以上だという。
東京大学物性研究所の酒井明人助教と中辻知教授らの研究グループは2018年7月、室温環境でこれまでの10倍以上という巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)を示す磁性金属「Co2MnGa」の開発に成功したと発表した。10ccの体積で100μW以上の発電が可能だという。
非磁性半導体を用いるこれまでの熱電変換素子は、発電方向が温度差の方向と同じであり、複雑な立体構造となる。このため熱発電システムの大型化や高集積化を行うには製造コストなどに課題があった。一方、磁性体の異常ネルンスト効果を利用する熱電変換素子は、温度差の方向に対して垂直に発電するため、大面積での発電が容易である。しかし、これまでは異常ネルンスト効果が極めて小さいため、熱電として応用するのは難しいとされてきた。
今回の研究では、理化学研究所創発物性科学研究センターや米国メリーランド大学の研究グループと協力し、強磁性金属間化合物であるCo2MnGaが、室温環境において従来の10倍以上も大きい異常ネルンスト効果が得られることを示した。室温以上の高温環境であれば、異常ネルンスト効果がさらに上昇するという。また、カバーする温度範囲が広く、さまざまな温度の熱源で発電が可能、製造コストが安価で毒性のない材料のため安全、耐久性や耐熱性に優れる、といった特長を持つ。
研究グループによれば、巨大な異常ネルンスト効果は、ワイル点と呼ばれる電子構造のトポロジーと密接に関係しているという。第一原理計算によってワイル点がフェルミ面近くにあることを明らかにした。実験でもカイラル異常と呼ばれる現象を観測した。これはワイル点が存在する有力な証拠になるという。
ワイル点が存在すると、一般に異常ホール効果や異常ネルンスト効果が大きくなることは知られている。今回はそれをはるかに上回る値となった。ワイル点を仮定したモデル計算を行った結果、この増大はワイル点の性質が変化することに対応した量子臨界現象であることが明らかとなった。
研究成果は、ボイラーやエンジンの排熱を利用した発電システムはもとより、「給湯器や体温など微量の排熱を電気に変換し、無線システムやセンサー装置の電源として活用することができる技術」とみている。
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