物質・材料研究機構(NIMS)は、室温における品質因子(Q値)が100万以上と極めて高い「ダイヤモンドカンチレバー」を開発した。カンチレバー上に振動をセンシングする電子回路などを集積した単結晶ダイヤモンドMEMSセンサーチップの開発にも成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2018年10月、室温における品質因子(Q値)が100万以上と極めて高い「ダイヤモンドカンチレバー」を開発したと発表した。このカンチレバー上に、振動をセンシングする電子回路などを集積した単結晶ダイヤモンドMEMSセンサーチップの開発にも成功した。
MEMSセンサーは、自動車や情報通信、携帯電話機/携帯端末、防災/セキュリティ、医療/ヘルスケア、ロボットなど、さまざまな用途で活用されている。ところが、一般的なMEMSセンサーはシリコン基板をベースとしたもので、「エネルギー損失」や「品質因子」「安定性」「感度や分解能」などの点で課題もあった。既に、多結晶ダイヤモンドを用いたMEMSデバイスの開発事例も発表されているが、機械性能や安定性などの点で十分な性能が得られていないという。
研究グループは、2010年に単結晶ダイヤモンド基板を用いてカンチレバーなどを作製するプロセスを開発したが、感度はシリコン製カンチレバーと同等レベルであった。その後、ダイヤモンド機械共振子のQ値を決めるエネルギー散逸機構を解明し、2017年にはQ値が約1万のダイヤモンドカンチレバーを作製できるプロセス技術を開発した。
今回は、これら一連の研究成果をベースに、スマートカットと原子スケールエッチング技術を組み合わせ、ダイヤモンドカンチレバーの結晶欠陥を取り除いた。この結果、Q値が110万という極めて高い値を示すダイヤモンド機械共振子の開発に成功したという。
さらに今回、ユニバーサルオンチップセルフセンシング自励発振駆動のMEMSデバイスコンセプトを提案。カンチレバー上に振動させるための回路と、振動をセンシングする電子回路を集積した単結晶ダイヤモンドMEMSチップを試作し、実証実験に世界で初めて成功したと主張する。開発した単結晶ダイヤモンドMEMSチップは、感度が高く、作動電圧が低い。エネルギー散逸は低く、高周波で高温動作(600℃)を達成しているという。
研究グループは今後、ダイヤモンド製MEMSチップの実用化に向けて基盤技術の確立を急ぐ。高速かつ小型で単分子の質量の違いも検知できる極めて感度の高い、高信頼性センサーなどへの応用を目指す考えである。
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