今回は、Intel創業7年目となる1974年の半導体メモリに関連する状況を解説する。
Intelの公式文書である「年次報告書(アニュアルレポート)」をベースに、Intelの創業期の活動を創業年(1968年)から1年ずつ記述する連載の第10回である。前回は、創業7年目である1974年の業績をご報告した。今回は、同じく創業7年目である1974年の半導体メモリにおける状況と活動を主にご紹介する。
1974年の「年次報告書(アニュアルレポート)」が記述する半導体メモリの製品と市場の様子は、現在とはかなり違う。現在はDRAM(ダイナミックDRAM)が、ありとあらゆるシステムに広く普及している。しかし1974年当時、DRAMは「一部のユーザーだけが使う特殊なメモリ」という位置付けだった。具体的には、メインフレーム(大型コンピュータ)に代表される、大規模なシステム「だけ」に向けたメモリだった。
それではメインフレーム以外のシステムが主に使っていたメモリは何か。SRAM(スタチックRAM)である。ターミナル、カルキュレータ(計算器)、コントローラー、アカウンティングマシンなどの小規模なシステムで、SRAMは広く使われた。ユーザーの数(顧客数)で見れば、DRAMユーザーよりもSRAMユーザーが圧倒的に多かった。
DRAMが「特殊なメモリ」で、SRAMが「普通のメモリ」である大きな理由は、使いやすさにある。DRAMは使いにくい。大きな理由は2つ。1つは、DRAMでは「リフレッシュ」と呼ぶ、データの再書き込み動作を定期的に実行しなければならないこと。もう1つは、外部から複数の電源電圧を与えなければならないことである。DRAMのユーザーは、データの読み書きを制御する回路のほかにリフレッシュを制御する回路を設計しなければならない。これはかなり面倒くさい。さらに、2種類あるいは3種類の電源電圧を用意する必要がある。これも開発負担となる。
これに対してSRAMには、リフレッシュがない。そして外部から与える電源電圧は1種類だけである。周辺の制御回路と電源回路の設計負担は、DRAMに比べると大幅に軽い。つまり、使いやすい。従って開発コストをそれほどかけられない小規模なシステムでは、SRAMを採用することになる。
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