今回の取り組みで最も重要なのは、ラズパイやArduinoに対応したという点だ。オープンプラットフォームに対応するというのは利点が多いと、高塚氏や、同じイノベーション推進本部 CTO室 戦略グループに所属する小島有貴氏は述べる。
例えば、アプリケーションが幅広いIoTでは少量多品種に対応する必要があるが、ラズパイやArduinoであればそれが可能だ。膨大な種類のアプリケーション一つ一つに対応していくのは難しくても、例えばラズパイをPoC(Proof of Concept)として使い、(オムロンの)センサーとラズパイで、どこまでできるかを示すことができる。高塚氏も、PoCとしての使われることを期待していると語る。
オムロンは、ラズパイ/Arduinoでセンサーデータを読み出すためのサンプルコードを提供しているが、それさえあれば、あとはユーザーが自分たちの用途に合わせて独自に実装していける。また、小島氏によれば「ラズパイにつながるならば、センサーを使ってみたいという声もある」という。
オープンプラットフォームに対応することで、オムロンのセンサーが、ラズパイやArduinoのコミュニティーやエコシステムに取り込まれ、アプリケーションが自発的に広がっていくというメリットを得られるのだ。
高塚氏と小島氏によれば、評価モジュールを提供し始めて約1カ月だが、SNSなどを通じて少しずつ反応が増えてきているところだという。ユーザーからの要望により、今回用意した3種類のセンサー以外に、環境センサーなども対応させることを検討中だ。
高塚氏は、今回の取り組みの意図として「われわれだけで新規事業を生み出そうとすると、どうしても製造業のメーカーとしての発想になってしまう。オープンイノベーションとして他社と連携し、顧客の要望を理解して新規事業を開発できる体制にしなければ、分からない世界があると考えている」と述べる。
「評価モジュールを用意すれば、ユーザーに使ってもらって、必要なセンサーの種類や性能などについてフィードバックをもらえる。さらに、どんな用途に使えるのか、アプリケーションの幅を知ることにもつながる」(高塚氏)
B2B(Business to Business)で提供しているセンサーを個人向けにも提供する試みは、オムロンのビジネスモデルとしては、ほぼ初めてになるという。「個人やスタートアップなどの市場に向けての取り組みはゼロではないが、あまり行ったことがない。B2B以外の市場に対して、当社のセンサーがどのような価値を提供できるのか、それを今回の取り組みで見いだせるのではないか」(高塚氏)
ラズパイでは産業利用が進んでいる。2018年6月の時点では、月産される50万〜60万台のうち、35万〜40万台が産業用途向けなので、当初の教育用途を上回っている(関連記事:「ラズパイ」最初の10年、今後の10年)。オムロンも、センサーをオープンプラットフォーム対応とするに当たり、このトレンドを意識したという。もともと、評価モジュールのセンサーは産業用途で提供しているものだ。そのセンサーを接続したラズパイが産業向けで活用されても、センサーの性能や品質という点では強みになるだろう。
さらに小島氏は、ラズパイ互換のボードが増えていることにも着目している。「ラズパイが共通ツールのようになるにつれ、ラズパイ互換の品質保証ボードが市場に登場し始めている」と小島氏は説明する。例えばASUSは、ラズパイと高い互換性を持つシングルボードコンピュータ「Tinker Board」を出している。このようにラズパイ互換のボードが増えれば、ラズパイからシームレスに他のボードにも移行でき、その分、センサー/評価モジュールの浸透も進むことになる。ラズパイを軸にした、こうした動きも、オープンプラットフォームならではといえるだろう。
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