本稿では、Huaweiが現在抱える政治地理学的なジレンマも取り上げている。同社が米国、オーストラリア、ニュージーランドなどの一部のメーカーから除外されていることで、深刻な影響が広がりつつある。
欧州は矛盾した難しい土地である上に、Huaweiの5G契約を阻止せよという米国当局からの圧力が高まっている。だが、欧州の通信事業者の多くは、同社の通信装置に大きく依存している。
一部のケース、特にBritish Telecommunications(BT)がある英国では、Huaweiへの依存は中核的な4Gネットワークにまで広がっている。ドイツでは、Huaweiは巨大な研究開発(R&D)事業を展開しており、Deutsche TelekomはHuaweiを4G RAN(Regional Area Network)の主要サプライヤーの一つにしている。2018年、Three UKは5G RANの配備に当たり、既存のサプライヤーであるNokiaやEricssonではなくHuaweiと契約した。旧世代の3Gと4G RANでは、NokiaやEricssonに発注していた。
英国は過去数カ月間にわたり、明らかに曖昧な印象を与えてきた。
BTは2018年末、Huaweiの製品を既存のコアネットワークと長距離光ネットワークから排除し、5G入札からも除外する方針を表明した。こうした通信機器交換によりネットワーク運営が大きく混乱する可能性があるにもかかわらず、このような方向性を示したわけだ。
加えて、BTは上記のような通信機器交換が可能であると想定している。一方で、BTの主席アーキテクトであるNeil McRae氏は、2018年末に開催されたあるカンファレンスの中で「真の5GベンダーはHuaweiだけである」と述べた。言わずもがなだが、それはHuaweiが主催するカンファレンスだった。
その後、2019年2月半ばには、UK National Cyber Security Centre(NCSC:英国国家サイバーセキュリティセンター)が、5Gネットワーク(特に5G RAN)でHuaweiの装置を使用することのリスクを緩和できることを示唆する文書を準備していることが明らかになった。だが、NCSCは以前、Huaweiの装置を配備することに伴うセキュリティ上の深刻な懸念について言及していた。
英国がリスクを制御する自信があるかどうかを示す証拠として、Huaweiがこの報告書を引き合いに出すことも考えられる。NCSCの報告書は、他の欧州諸国が自信をもってHuaweiの装置を設置できることを保証する上でも役立つ可能性がある。
英国政府通信本部であるGCHQは長期にわたり、BTなど同国の大手通信事業者の協力の下、Huaweiの装置を分解し、コードを分析してきた。だが、5Gネットワークに組み込まれている中国の技術が受け入れ難いリスクを示している証拠は、現在までに何一つ見つかっていない。
一方、影響力を持つ軍事・安全保障シンクタンクRUSI(Royal United Services Institute:英国王立防衛安全保障研究所)は、最近発表したレポートの中で、「英国政府が、英国内の5GネットワークにHuaweiの機器を採用することを許可した場合、RUSIとしてはそれについて批判せず、責任も負わない」と、強硬な姿勢を見せている。
このレポートの著者であるCharles Parton氏は、かつてEUで中国関連の法廷弁護士を務めた人物だ。さらに同氏は、「現在はそうでなくても、将来的にHuaweiが、英国の通信システムを介してデータを極秘に収集しようと考える可能性がある」と主張している。
また、元外交官としての経歴も持つ同氏は、RUSIのレポートの中で、「もっと大局的な見地から言うと、UKは、機密情報を共有する5カ国の枠組み『Five Eyes』の同盟国であるオーストラリアと米国、ニュージーランド、カナダと、同じ立場を維持する必要がある」と強い言葉を投げかけている。前述のように、これら5カ国のうち、カナダはまだ検討中のようだが、他の3カ国は既に、Huaweiに対して5Gインフラストラクチャへの参入を禁止しているという。
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