早稲田大学らの研究グループは、2つの共振器量子電気力学系を光ファイバーで効率よく結合した「結合共振器量子電気力学系」を実現することに成功した。光量子コンピュータや分散型量子コンピュータ、量子ネットワークへの応用が期待される。
早稲田大学理工学術院の青木隆朗教授と科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者の加藤真也氏、オークランド大学(ニュージーランド)のスコット・パーキンス准教授らによる研究グループは2019年3月、2つの共振器量子電気力学系を光ファイバーで効率よく結合した「結合共振器量子電気力学系」を実現することに成功したと発表した。光量子コンピュータや分散型量子コンピュータ、量子ネットワークへの応用が期待される。
共振器量子電気力学系は、光共振器に閉じ込められた光子と原子が量子力学的に相互作用する系のことで、通常の系では困難だった純度の高い量子状態の生成や特異な現象を観測することが可能になる。このため、光子や原子の量子性を探究するには理想的な実験対象といわれている。
近年では、超伝導電気回路や人工原子を用いた「回路量子電気力学系」が考案され、これに基づく量子コンピュータの研究も盛んである。ところが、回路量子電気力学系や従来の共振器量子電気力学系では、周波数が数ギガヘルツから数十ギガヘルツのマイクロ波光子を用いており、室温で量子性を保つことができず、系全体を極低温に冷却する必要があった。
これに対して、周波数が数百テラヘルツという光領域の光子を用いた共振器量子電気力学系は、室温でも全く量子性を失わず、光ファイバーを用いて長距離伝送が可能だという。ただし、これまでは共振器と光ファイバーの結合効率が悪く、実用化に向けての課題となっていた。
そこで研究グループは今回、ナノ光ファイバーとファイバーブラッグ格子を組み合わせたナノ光ファイバー共振器を開発した。この共振器は光ファイバー自体に作り込まれており、複数の共振器を低損失で接続できる。これによって、2つのナノ光ファイバー共振器量子電気力学系を光ファイバーで高効率に結合することが可能となった。今回は、数メートル離れた原子と2つの共振器に、同時に存在する光子の間の相互作用も初めて観測することができたという。
研究グループは今回の研究成果について、「分散型量子コンピュータを実現するために極めて重要な要素技術である。光ファイバー量子ネットワークへの応用も期待できる」とみている。
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