東北大学の研究グループは、錠剤サイズの「飲む体温計」を開発し、動物への適用実験に成功した。胃酸発電によるエネルギーで動作するため、体内に飲み込んでも安全だという。
東北大学イノベーション戦略推進センターの中村力特任教授とマイクロシステム融合研究開発センターの宮口裕助手、工学研究科の吉田慎哉特任准教授らによる研究グループは2019年3月、錠剤サイズの「飲む体温計」を開発し、動物への適用実験に成功したと発表した。胃酸発電によるエネルギーで動作するため、体内に飲み込んでも安全で、病気の早期発見などが可能になる。
安静時の深部体温(真の基礎体温)やそのリズム(体内時計)は、健康状態を把握するための重要な指標の1つといわれている。ところが従来の体温計や温度センサーで安静時の深部体温を測定しようとしても、誤差が生じたり測定が煩わしかったりして、容易ではなかった。
そこで研究グループは、飲み込み型センサーの開発に取り組んだ。試作品の外形寸法は直径が約9mm、厚みは約7mmと小さい錠剤型である。センサーは、胃酸電池の電極となるマグネシウム(Mg)とプラチナ(Pt)金属板以外を樹脂で覆った構造である。樹脂内部には温度センサー、マイコン、カスタム集積回路、通信用コイルおよび、積層セラミックコンデンサーなどが搭載されている。製造原価を100円以下に抑えられるよう、安価な部品や実装技術を採用したという。
飲み込んだセンサーが胃部に達し、胃酸が胃酸電池電極部に接触すると、レモン電池と同様の原理で発電する。この発電エネルギーをコンデンサーに蓄電する。充電したエネルギーで、例えば30分に1回程度の頻度で腸内の温度を測定し、近距離磁気誘導方式によって体外の受信機にデータを送信する仕組みである。通信は体内吸収が極めて少ない約10MHzの周波数帯を利用する。飲み込んだセンサーは通常、24時間以内に排出され、下水道処理場での沈殿工程で回収し、廃棄することを想定している。
動物への適用実験では、試作したセンサーを犬に服用させ、市販のループアンテナと組み合わせて、発電や測温、通信といったシステム全体の動作を検証した。犬の体表と外部アンテナの距離は10〜20cmで、犬の体内温度は38.9℃と測定された。体内センサーと外部アンテナは50cmの距離でも十分に通信できることを確認した。
研究グループによると、人間への応用を想定した場合、利用者が就寝前に同センサーを服用すれば、ベッドの脇や下に設置された受信アンテナで、就寝中の深部体温測定を、被測定者が意識することなく行えるという。運動中の体温測定については、ベルトや腕時計タイプの受信機を用いることになる。
研究グループは引き続き、システムの最適化と動物での実証実験を重ねながら、将来は人間への適用試験も目指している。
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