東北大学は、分光技術を用いて大口径GaN(窒化ガリウム)ウエハーの結晶欠陥を高速かつ高精度に検査する技術を開発した。
東北大学多元物質科学研究所の小島一信准教授と秩父重英教授は2019年5月、分光技術を用いて、大口径GaN(窒化ガリウム)ウエハーの結晶欠陥を高速かつ高精度に検査する技術を開発したと発表した。
高耐圧で低損失のパワー半導体や、LEDなどの光デバイスでは、GaNウエハーを用いた製品開発が進む。ところが、素子の量産化に向けては、GaNウエハーの「高い結晶品質」と「大口径化」を実現していく必要がある。デバイスの性能と製造コストを左右するからだ。
本格量産が始まると、直径6インチ(約152mm)以上のGaNウエハーを採用した製造ラインの稼働が求められる。このため、GaNウエハーを高速かつ高感度に検査/評価できる方法を早急に確立する必要性が出てきた。
小島氏らは今回、浜松ホトニクスの池村賢一郎氏と協力し、全方位フォトルミネセンス(ODPL)法を応用した高速で高感度の検査手法を開発した。ODPL法は積分球を用いた分光法の1つで、結晶の発光効率を再現性良く測定できるのが特長である。
GaNは、外部から励起を受けると特有の光を放出する。結晶欠陥が少なければ強く発光するという。このため、発光量や発光効率を計測すれば、結晶品質を評価することが可能である。ただ、光計測は再現性に乏しいことも分かっている。
研究チームは、積分球と呼ぶ装置内に試料を配置して、結晶から放出される光を全方位から収集することで、発光量や効率を測定する方法に着目した。ただ、2π配置と呼ばれる従来方法だと積分球よりも大きな結晶を評価することは難しい。
そこで今回、φ配置を新たに考案した。積分球に極めて小さい穴(ピンホール)を開け、その穴から試料の発光を測定する方法である。しかし、φ配置だと一般的には全ての光を検出することはできないといわれてきた。
ところが、結晶の基礎吸収端エネルギー(今回は3.31電子ボルト)より大きなエネルギー領域に限定すると、光は結晶に完全吸収される。このため、結晶の上方向しか放出されず、結晶が積分球の外にあっても、2π配置とほぼ同じ光のスペクトルや強度を得られることが分かった。
開発したφ配置のODPL法は、外部の自動ステージ上に置かれたGaNウエハーを移動させながら、ウエハー面内の各ポイントにおける発光量や効率を計測することができる。これによって試料の大きさに制限なく、欠陥濃度の大小関係を非破壊で検査することが可能となった。
新たに開発した計測法は、直接遷移型半導体であれば有機材料にも適用することができるという。また、結晶の温度調節なども行うことができ、極低温環境における結晶の基礎物性評価などに利用することが可能である。
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