東京工業大学の岡田健一教授とNECは、5G(第5世代移動通信)システムに向けたミリ波帯フェーズドアレイ無線機を共同で開発した。
東京工業大学の岡田健一教授とNECは2019年6月、5G(第5世代移動通信)システムに向けたミリ波帯フェーズドアレイ無線機を共同で開発したと発表した。量産効果が期待できるCMOS技術で実現した。2020年ごろの実用化を目指す。
5Gシステムで利用される周波数帯は、従来のマイクロ波帯に加え、極めて高速な通信を可能にするミリ波帯が計画されている。波長の短いミリ波帯を用いると、アンテナ素子を小型化できる半面、伝搬損失が極めて大きい。ここで注目されているのがフェーズドアレイ無線機である。
フェーズドアレイ無線機は、複数のアンテナ素子と同数のトランシーバーを組み合わせて構成される。各アンテナ素子から出力される信号の位相と振幅を制御することで、放射する電波の指向性を高め、高速かつ安定した通信を可能にする。ところが、出力される信号の位相と振幅強度がわずかでもばらつくと、ビームフォーミングの効果が著しく低減するという。
研究チームは今回、ミリ波トランシーバーのビームフォーミングに必要となる、信号の振幅や位相を検出し補償する方式と、そのための回路を新たに考案した。試作したトランシーバーを用いて検証したところ、高い精度で指向性制御が可能であることを実証した。
具体的には、位相と振幅のばらつきを補償する回路をCMOS技術で開発した。これにより、比較的低速のA-DコンバーターICとカウンターを用いて位相検出を可能にした。従来のように、高速で高分解能のA-DコンバーターICを実装しなくても済むという。
今回のフェーズドアレイ無線機は、最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて試作した。この技術を用い、12mm2という小さい面積に4系統のフェーズドアレイ無線機を実装した。試作したCMOS無線送受信チップは、39GHzの周波数帯で利用することができ、飽和出力電力は15.5dBmである。
研究チームは、CMOS無線送受信チップを搭載した評価基板を作製し、伝送実験を行った。電波暗室内には向かい合う2台のモジュールを1m離して設置した。開発した補償回路を動作させてデータ伝送試験を行った。この結果、位相は0.08度、振幅は0.04dBと極めて高い特性を示した。各アンテナの位相と振幅を制御すれば、電波の放射方向を0.1度の精度で調整できることが分かった。また、0度方向でのEIRP(等価等方輻射電力)は53dBmとなった。
固定のビームフォーミングでは、帯域幅400MHzで256QAMの5GNR信号において、EVM(Error Vector Magnitude)は−30dBを達成した。1チップ当たりの消費電力は送信時が1.5W、受信時が0.5Wとなった。
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