今回から磁気抵抗メモリ(MRAM)について解説する。まずはMRAMの構造と、長所、短所をそれぞれ説明しよう。
2018年8月に米国シリコンバレーで開催された、フラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」でMKW Venture Consulting, LLCでアナリストをつとめるMark Webb氏が、「Annual Update on Emerging Memories」のタイトルで講演した半導体メモリ技術に関する分析を、シリーズでご紹介している。
なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
本シリーズの第7回で述べたように、次世代メモリの最有力候補は相変化メモリ(PCM)と磁気抵抗メモリ(MRAM)、抵抗変化メモリ(ReRAM)の3つである。いずれも不揮発性メモリ(NVM:Non-Volatile Memory)だ。
前回と前々回は、相変化メモリ(PCM)、厳密には「3D XPointメモリ」についてご説明した。今回からは、磁気抵抗メモリ(MRAM)について解説する。
MRAMはその名前の通り、磁化の方向によって記憶素子の電気抵抗が変わることを利用したメモリである。記憶素子はトンネル障壁膜を2枚の強磁性体膜で挟んだ3層構造を基本としており、この基本素子を「磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunneling Junction)」と呼ぶ。2枚の強磁性体膜の1枚は磁化の方向が固定されており、「固定層(Fixed Layer)」と呼ばれる。もう1枚は磁化の方向が変えられるようになっており、「自由層(Free Layer)」と呼ぶ。
自由層の磁化の方向は、固定層の磁化と同じ方向(平行状態)、あるいは、逆の方向(反平行状態)になるように制御する。平行状態のときは、MTJを貫通する方向の電気抵抗が低い。そして反平行状態のときは、MTJを貫通する方向の電気抵抗が高い。この電気抵抗の違いを、論理値として記憶する。
MRAMのメモリセルは通常、1個のセル選択トランジスタと1個のMTJで構成する(1T1R方式)。MTJの自由層で磁化の方向を変える(反転させる)には、当初は外部磁界を使って自由層の磁化方向を回転させる「トグル方式」と呼ばれる技術が採用された。ただし、トグル方式には微細化が難しいという問題点があり、小容量のメモリだけに使われた。
その後、電子スピンのトルクを自由層に与えることで磁化反転を起こす「スピン注入(STT:Spin-Transfer-Torque)方式」がMRAMに使われるようになった。STT-MRAMは原理的には10nm以下の微細化が可能である。このため最近の研究開発は、STT-MRAMが主役となっている。
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