北海道大学大学院理学研究院の原田潤准教授らによる研究グループは、小さい電場で分極反転が可能な、新しい柔粘性/強誘電性結晶を開発した。
北海道大学大学院理学研究院の原田潤准教授らによる研究グループは2019年6月、小さい電場で分極反転が可能な、新しい柔粘性/強誘電性結晶を開発したと発表した。透明な強誘電性フィルムや赤外線センサー素子などへの応用が可能である。
原田氏らの研究グループはこれまで、高温で柔粘性結晶相になり、室温で強誘電性を示す機能材料「柔粘性/強誘電性結晶」を開発し、2016年7月にその成果を発表した。柔粘性/強誘電性結晶は、電場を掛けると強誘電体の分極方向を3次元的にほぼ自由に変更することができ、粉末を固めた材料でも強誘電体として機能する。溶液加工や粉末加圧なども容易だが、室温での分極反転には大きな電場が必要になるため、これまでの研究成果は産業利用までには至らなかった。
今回は、発表済みの柔粘性/強誘電性結晶を改良して、小さな電場でも分極反転を可能にした。開発した結晶は、球状の分子構造をもつ有機アミンである「1−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン」と「過レニウム酸」との中和で得られる塩(強誘電体1)である。室温では強誘電相となり、50℃以上で柔粘性結晶になることが分かった。この結晶を加圧すると伸びて拡がる。粉末試料を100℃で加圧すると、厚みや大きさを変えられる透明なフィルムやペレットを作製することができるという。
作製したフィルムは強誘電性を示し、室温で約4kV/cmの電場を掛けると分極反転した。基板上に作製した膜厚1μmの薄膜結晶は、約2Vの電場で分極反転を起こすことが分かった。
温度により分極量が大きく変化する焦電性を備えていることも判明した。強誘電体1の多結晶フィルムにおける電圧応答焦電性能指数(Fv)は、室温で0.45m2/Cとなった。この数値は、チタン酸ジルコン酸鉛の約8倍で、高感度センサーに用いられる単結晶のタンタル酸リチウムや硫酸トリグリシンよりも大きいことが分かった。
強誘電体1の強誘電性フィルムにおける圧電係数(d33)値は約90pC/Nで、組成を最適化したチタン酸ジルコン酸鉛セラミクスには及ばないものの、ポリフッ化ビニリデン類よりも大きな圧電性を示すことを実証した。
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