今回は、“チップ面積”に注目しながら2018〜2019年に発売された最新スマートフォン搭載チップを観察していく。同じ世代の製造プロセスを使用していても、チップ面積には歴然たる“差”が存在した――。
2018年後半、Appleは「iPhone XS」など複数機種で新プロセッサ「A12 Bionic」を活用した。A12 Bionicは、TSMCの7nmプロセスを用いて製造し、大幅に機能を強化した。Appleが7nmプロセスのA12 Bionicを活用し始めた直後にはHuaweiおよび、HiSiliconが新プロセッサ「Kirin980」を発表し、2018年年末モデルの「Mate20 Pro」から採用を開始した。Kirin980もA12 Bionicと同じTSMCの7nmプロセスを用い、CPUやGPUに加えてAI(人工知能)用のアクセラレーターの規模/性能もそれまでのプロセッサに比べ著しく高めた。これが7nm世代プロセッサの第1陣である。
スマートフォン・プラットフォームを主として提供するQualcommやMediaTekは、Kirin980やA12 Bionicの登場時点では7nm世代プロセッサの提供には至っていなかった。またスマートフォントップメーカーのSamsung Electronicsも2018年末時点では新プロセッサの提供には至っていなかった。
QualcommやSamsungは例年3月上旬に行われるイベント「MWC Barcelona」(スペイン)の2019年開催で、新製品/新プロセッサを発表した。AppleやHuaweiが2018年後半だったことから、おおよそ半年遅れでの7nm世代プラットフォームの発表であった。2019年スマートフォンのプラットフォームは各社ともに7nm世代プロセッサを用いたもの一色になっている。
図1は、Samsungの2019年フラグシップモデル「Galaxy S10」の外観、分解して内部の基板を取り出した様子および、メインのプロセッサ「Exynos9820」(Samsung製)の様子である。チップは2枚重ねのPOP(Package On Package)方式を用いている。左側のメモリーチップ(8GバイトのLPDDR4X)と右側のExynosプロセッサが別々のパッケージに収められていて、重ねて“DRAM+プロセッサ”として使われる。
基板上にはプロセッサを取り囲むように、Samsung製のチップセットが並んでいる。電源制御ICや通信用のトランシーバである。これら以外にもSamsung製チップは多数活用されている。3眼カメラのCMOSセンサーは全てSamsung製。インカメラのCMOSセンサーやNFCチップ、ディスプレイ用のタッチコントローラICなどもSamsung製である。Galaxy S10内のおおよそ3分の1はSamsung製という高いチップセット(同一メーカー)率である。メインプロセッサのExynos9820は、上記チップ群の7nmとは異なり、わずかに線幅の太い8nmプロセスを用いている。製造はSamsungである。
Samsungは、TSMCと同じ時間軸での7nmプロセス量産化には至らず2019年前半モデルは8nmプロセスになっている。とは言え8nmプロセスも、従来よりも多くの機能を搭載できており、7nmプロセスとほぼ同一世代と見なすことができる。Exynos9820は、Arm互換のSamsungオリジナルCPU「Mongoose」の第4世代M4が2コア、さらに3階層構造のCPUとして、Arm Cortex-A75コア2基、同A55コアを4基持つ。さらにはAI用アクセラレータ(NPU)や12コアのGPU、カメラISP、8K/4Kビデオ機能などに加えて、LTEモデムプロセッサ(Cat.20対応)まで1つのシリコンに集中しているのだ。さらにこのチップは、日本未発売のSamsung製の5G(第5世代移動通信)対応端末「Galaxy S10 5G」でもメインプロセッサとして採用されている。
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