東京工業大学は、大型放射光施設「SPring-8」の放射光マルチスケールX線CTを用いて、セラミックス内部の欠陥を観察することに成功した。
東京工業大学は2019年8月、大型放射光施設「SPring-8」の放射光マルチスケールX線CTを用いて、セラミックス内部の欠陥を観察することに成功したと発表した。粉体成形と焼結プロセスにおける欠陥形成機構を解明したことで、高信頼の部材製造につながるとみている。
今回の成果は、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の大熊学特任助教、西山宣正特任准教授、若井史博教授の研究グループと、高輝度光科学研究センターおよび、長岡技術科学大学との共同研究によるものである。
セラミックスは、エレクトロニクスを始め、さまざまな分野で利用されている。粉末を部品形状に形成し、加熱して焼き固めて用いるが、この粉体形成と焼結工程で内部欠陥が生じると、セラミックス部材の強度や信頼性が低下する。
そこで研究グループは、製造プロセスに起因する内部欠陥の寸法や形状、分布状況を調べた。具体的には、高輝度光科学研究センターが開発した放射光マルチスケールCT技術を用いて、アルミナ(Al2O3)の3次元欠陥形成過程をSPring-8の「BL20XU」で観察した。マルチスケールCTは、低分解能だが広い視野を観測できる「マイクロCT」と、視野は狭いが高い分解能が得られる「ナノCT」で構成され、内部欠陥を効率よく観察することができるのが特長だ。
マイクロCTで観察した内部欠陥は、3つのタイプに分類できるという。直径10μm程度の丸い欠陥(I型)、分岐した亀裂状欠陥(II型)、加圧方向に対して垂直に配向をした円形亀裂状欠陥(III型)である。その後、II型とIII型の欠陥をナノCTで詳細に観察した。これらI型、II型、III型の欠陥は、初期焼結段階(相対密度68%)で既に形成されていることが分かった。
セラミックスの成形には、乾式プレスを用いるのが一般的だ。Al2O3などの超微粒子原料は、流動性ある顆粒を成形型に詰める。この後、一軸プレス加圧することで相対密度の高い成形体とする。顆粒は「球形」または「くぼみ」を持つ形であり、内部に空隙があることも多いという。
このような成形体は階層構造となり、顆粒内部や顆粒間に沿って亀裂状欠陥が形成され、焼結後も残留するという。ところが、空間分解能よりも亀裂の厚みが小さいため、これまで用いてきたX線CT技術では、亀裂状欠陥を検出できなかった。
マルチスケールCTで内部欠陥を観察したところ、I型はランダムに分散しており、顆粒内部にある丸い気孔から生じたものと判断した。II型は顆粒間の境界から形成され、III型は中空顆粒内部の空隙あるいは、くぼみから形成される。
さらに、焼結段階で大きな亀裂状欠陥は収縮/消失せず、わずかに成長する傾向にあることが分かった。しかも、その原因は、成形体組織の不均一性による焼結中の速度差によるものであることが明らかとなった。これらの観察情報から、欠陥の種類に応じた破壊強度も推定できたという。
研究グループによると、今回の研究成果はアルミナ以外のセラミックス開発にも適用できるという。その応用例として、低温同時焼成セラミックス(LTCC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、全固体電池といった積層材料の焼結プロセスを挙げた。
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