図4は、5G moto modの全チップにおけるチップ比率とQualcommのデバイス別の比率をまとめたものである。図左側は全体の様子である。5G moto modの実に約8割がQualcommチップセットで構成されているのだ。一つのメーカーだけで約8割を構成することは、まれである。残り2割の内訳はSamsungのメモリ、STMicroelectronicsのセンサーなど。まさにメモリとセンサー以外をQualcommはカバーしたことになる。電池から通信用パワーアンプ、アンテナまでを領土として広げたことが、5Gのスタートとして見ていくべき点となる。Samsungの5G対応スマートフォン、Galaxy S10 5Gも同様である。Samsungのチップセットの領域は広がっている。プロセッサ、電源IC、トランシーバー、パネル用タッチコントローラまでSamsungが自前の半導体で賄っている。
2017年以降、トップメーカーは上記のように自社のチップセットの領土を確実に広げ、従来のサプライヤーを締め出してきた。締め出されたメーカーはQualcommやSamsungの半導体と組み合わせることで成長してきたが、行き場を失い合従連衡を図るしかない状況になる……。
図4の右側はQualcommの5G向けチップセットのデバイス別の内訳比率である。おおよそ7割がアナログ(アンテナ系含む)、23%がパワーアンプ、デジタルはわずかに8%。スマートフォンといえばデジタル処理の典型デバイスと思われがちだが、内部でのデジタルチップは1割にも満たない。
10nm、7nmのような微細プロセスでは1チップに100億トランジスタ規模の回路を搭載することができる。多くのCPUや強大なGPU、DSPやAI機能、ビデオ機能などを搭載しても十分である。デジタルは1チップないしは2チップで十分になり、それを最適化するための電源ICや、通信パワーアンプなどのデジタル周辺の分野が成長の領域になっているわけだ。
そのためアナログメーカーの再編(Texas InstrumentsによるNational Semiconductorの買収、On SemiconductorによるFairchild Semiconductor買収、Analog DevicesによるLinear Technology買収、ルネサス エレクトロニクスによるIntersil、IDT買収など)もこの10年大きく進んでいる。一方でQualcomm、Samsung、MediaTekらは自らのアナログ領域を広げており、チップセットでのカバー領域は年々広がっている。こうしたプラットフォームの領域拡大は5G時代には確実に進むものと思われる。Huawei傘下の半導体メーカーHisiliconも同様である。2019年は5G元年といってもよいが、今後本格的な普及期になれば、5nmのようなさらに多くの回路を搭載できるデジタルデバイスがデジタルの機能集約を進め、チップセットの在り方はさらに変化していくものと思われる。
こうしたチップセットは、ロボティクスや車載、その他の分野にもそのまま活用されていく可能性が極めて高いだろう。今後とも5Gスマートフォンの動向、チップセットの変化を隈なく観察していきたい。
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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