東北大学は、400℃の熱処理耐性と無磁場で350ピコ秒の高速動作、10年間データ保持を可能とする熱安定性を実現したスピン軌道トルク(SOT)型磁気トンネル素子の作製に成功した。SOT-MRAMセルとしての動作も確認した。
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)の遠藤哲郎センター長と同電気通信研究所の大野英男教授(現総長)らの研究グループは2019年12月、400℃の熱処理耐性と無磁場で350ピコ秒の高速動作、10年間データ保持を可能とする熱安定性を実現したスピン軌道トルク(SOT)型磁気トンネル素子の作製に成功したと発表。開発した素子を用いたメモリ(SOT-MRAM)セルが動作することも確認した。
磁気トンネル接合(MTJ)素子は、磁石の向きで2つの抵抗状態を示すことから、ランダムアクセスメモリとして応用されている。その1つがSTT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)である。MTJ素子に直接電流を流し、2つの強磁性体のうち、片方の磁石方向を反転させることで情報を書き込む。既に混載フラッシュメモリの代替用途で量産出荷の準備が進んでいるという。
もう1つがSOTを用いたMRAMである。MTJの下部に設けたチャネル層に電流を流し、チャネル層に隣接する強磁性体のみ磁石方向を反転させる方式。書き込み速度が速く、SRAMを代替する技術として注目されている。この技術を実用レベルにもっていくには、量産ラインなどで求められる熱処理耐性や熱安定性、メモリセルとしての性能などを実証する必要があった。
そこで研究グループは今回、3端子型のメモリセル構造を有するSOT-MRAMを試作し動作実証を行った。書き込みと読み出しで異なる電流経路を設けることで、大きな動作マージンが得られ、超高速動作が可能になったという。
メモリ素子の情報書き換えは、深見准教授らが開発したSOT素子構造を採用した。チャネル層のタングステン(W)に電流を流すとスピン軌道トルクが生じ、隣接した強磁性体のコバルト鉄ボロン(CoFeB)層の磁化方向を反転させることで情報を記録する。チャネル層に対してMTJを傾けると無磁場での書き込みが可能になるという。
さらに、これまで培ってきたSOT素子技術と成膜技術、配線技術、エッチング技術などを持ち寄り、SOT素子とCMOSトランジスタを混載したMTJ/CMOSハイブリッドメモリセルを初めて試作、動作実証に成功した。具体的には、0.35ナノ秒と極めて高速な動作性能や400℃の熱処理耐性、10年のデータを保持するために十分な熱安定性(E/kBT=70)を達成するなど、実用化に向けた課題をクリアにした。
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