AMD(Advanced Micro Devices)は、高性能コンピューティング(HPC)で同社最大の成功を収めた。2023年に運用が開始される世界最速クラスのスーパーコンピュータ(スパコン)「El Capitan」に同社のCPUとGPUの両方が採用されたのだ。
AMD(Advanced Micro Devices)は、高性能コンピューティング(HPC)で同社最大の成功を収めた。2023年に運用が開始される世界最速クラスのスーパーコンピュータ(スパコン)「El Capitan」に同社のCPUとGPUの両方が採用されたのだ。
米エネルギー省(DoE:Department of Energy)の国家核安全保障局(NNSA)は2019年8月にEl Capitanを発表し、CrayがDoEのスーパーコンピュータプロジェクトを6億米ドルで受注した。その時点では、HPE(Hewlett-Packard Enterprise)はCrayの買収手続き中だった。手続きが完了次第、HPEが同契約を引き継ぐ。
El Capitanプロジェクトの発表時、DoEもHPE/Crayもどのメーカーのプロセッサを使用するかは指定していなかった。当初の見積もりでは、El Capitanは1.5EFLOPS(エクサフロップス)で動作する見通しだったが、AMDは同社の「Slingshot」インターコネクトと組み合わせて、CPU「EPYC」とGPU「Radeon」の将来版を搭載することで、2EFLOPSで動作するシステムを実現できるとHPE/CrayとDoEを説得したのである。
Crayのリードアーキテクトを長く務め、現在はHPEのHPC & AI担当シニアバイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)であるSteve Scott氏は、「2EFLOPSは、今日の最高性能のスーパーコンピュータよりも約10倍速く、世界の既存スーパーコンピュータトップ200を組み合わせたものより高速だ」と述べている。
HPE/Crayは、2023年に米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL:Lawrence Livermore National Laboratory)にEl Capitanを納入する予定だという。El Capitanは、LLNLと他の2つの国立研究所(Los AlamosとSandia)で、主に米国の核兵器の経年備蓄をモデリングして、安全性と信頼性、セキュリティを確保するために使用される。
LLNLは現在、世界で2番目に速いスパコンを運用している。IBMが同社の「Power9」CPUとNVIDIAの「V100」GPUを統合して構築した「Sierra」だ。
LLNLでLivermore ComputingのCTOを務めるBronis R. de Supinski氏は、「Sierra(将来的にはEl Capitan)で行うモデリングには、非常に複雑なシミュレーションが必要で、核備蓄が時を経るにつれて複雑さが増す。必要な性能を確保するには、どんどん大きなシステムが必要になる。El Capitanはそれに対応できる」と説明している。同氏は、「El Capitanが導入されれば、LLNLは日常的に3つのシミュレーションを同時に行えるようになる。さらに、シミュレーション結果に対する統計的な信頼性がはるかに高くなる」と付け加えた。
El Capitanには、AMDの「Zen 4」プロセッサコアを搭載した次世代EPYCプロセッサ「Genoa(開発コードネーム)」が採用される予定である。AMDの第3世代の「Infinity」アーキテクチャがベースになる。AMDの Datacenter and Embedded Solutions Business Groupでシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるForrest Norrod氏によれば、Genoaが標準的な製品になるという。El Capitanに搭載されるプロセッサ(つまりGenoa)をスケールダウンして、デスクトップマシン向けに展開する計画だ。
AMDは、GPUの競争力とCPUの成長を武器に、Intel、IBM、NVIDIAなどが存在するスパコン向けプロセッサの分野に参入した。フランスCEA(原子力・代替エネルギー庁)が運営するスパコン「Joliet-Curie(ジョリオ・キューリー)」には、AMDの「EPYC Rome」CPUが搭載されている。DoE、AMD、Crayは2019年5月、1.5EFLOPS以上の処理性能を備えたスパコン「Frontier」を開発する計画を発表している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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