理化学研究所(理研)と東京大学、ルール大学ボーフム校らの国際共同研究グループは、固体素子中の雑音を能動的に抑制することで、半導体量子ビットの制御エラーを低減することに成功した。
理化学研究所(理研)と東京大学、ドイツ・ルール大学ボーフム校(Ruhr-Universität Bochum)らの国際共同研究グループは2020年3月、固体素子中の雑音を能動的に抑制することで、半導体量子ビットの制御エラーを低減することに成功したと発表した。大規模な半導体量子コンピュータの制御回路開発に弾みをつける。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの中島峻研究員や野入亮人特別研究員、米田淳研究員(研究当時)、樽茶清悟グループディレクター、東京大学大学院工学系研究科の川崎賢人氏(研究当時)、理研創発物性科学研究センター量子システム理論研究チームのチームリーダーを務めるダニエル・ロス氏(スイス・バーゼル大学物理学科教授)および、ルール大学ボーフム校のアンドレアス・ウィック教授らによるものである。
国際共同研究グループは今回、量子ビットに対する雑音の影響を抑えるため、微弱な雑音を検出してフィードバック制御を行う手法を開発した。具体的には、磁場や電場を高速に検出するため、量子ビット自体を量子センサーとして用いた。測定したデータはFPGAでリアルタイムに解析し、量子ビットを制御するマイクロ波信号にフィードバックする。これによって、量子ビットへの雑音が補償され、高精度な回転操作を実行できるという。
実験では、GaAs/AlGaAsヘテロ接合基板に微細加工を行って単一の電子スピンを閉じ込め、これを量子ビットとして用いた。また、電子スピン量子ビットに隣接して補助量子ビットを設けた。これはパウリスピン閉塞現象を利用して、電子スピンの状態を高速に測定するためである。
電子スピン量子ビットに外部磁場をかけると、量子ビットは磁場強度に比例して一定の周波数で回転する。この周波数と一致したマイクロ波を与えると、電子スピン共鳴が起こり量子ビットを制御できるという。ところが、雑音の影響により量子ビットの回転周波数が変動すると、マイクロ波周波数とのずれが生じ、量子ビットの制御エラーとなる。
実験では、周波数が5.6GHzのマイクロ波を用いて量子ビットの回転周波数を測定し、雑音による周波数ずれを検出した。測定したデータから、回転周波数が±10MHzの範囲でランダムに変動していることが分かった。そこで、周波数のずれを補償するよう、マイクロ波周波数を調整した。こうしたフィードバック制御を約0.01秒周期で行うことにより、周波数ずれの変動を偏差0.3MHz以内に抑制できるという。
研究グループは、フィードバック制御を用いて量子ビットの回転運動を測定した。そうしたところ、回転の減衰時間(情報保持時間)T2*が28.4ナノ秒から766.7ナノ秒へと伸び、約27倍改善されたことを確認した。これらのデータから、量子ビットの品質が向上し、情報を長時間保持できることが分かった。
量子ビットを上下反転させる制御についても測定した。その結果、精度が99.04±0.23%に達することを確認した。この精度は、汎用量子コンピュータの実現に必要な量子誤り訂正を実行するのに十分な値だという。
研究グループによれば、開発したフィードバック制御の手法を用いて、同一試料中で雑音の効果をその場制御すれば、雑音と量子ビット制御精度との関係を定量的に解析することが可能だという。雑音の起源を明らかにするため、雑音の周波数特性を調べたところ、10Hz以下の低周波領域で、支配的な核スピン雑音の影響を効果的に抑制できていることが分かった。T2*の大幅な改善もこの効果によるものだとみている。
これに対し量子ビットの上下反転制御エラーは、10MHz程度の高周波雑音が支配的であることも明らかとなった。こうした周波数の雑音は、電荷揺らぎに起因する1/fスペクトルと、核スピンの磁気回転に由来する共鳴的なスペクトル(1/f1.7)からなることを突き止めた。
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