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銅に色素を塗るだけでスピン流−電流変換が発現スピントロニクス応用へ新たな道

東京大学、理化学研究所なんどの研究グループは2019年9月、色素を銅の表面に塗るだけでスピン流を電流に変換する機能が発現したと発表した。

» 2019年09月17日 09時30分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

 東京大学、理化学研究所、大阪大学、金沢大学の研究グループ*)は2019年9月、色素を銅の表面に塗るだけでスピン流を電流に変換する機能が発現することを実証したと発表した。研究グループでは、「研究成果により、スピントロニクス応用に新たな可能性が開かれた。今後は、分子の高い設計自由度を利用した新規スピン流デバイスの実現が期待される」としている。

*)東京大学物性研究所一色弘成助教、三輪真嗣准教授(大阪大学大学院基礎工学研究科 招へい准教授兼任)、大谷義近教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダーを兼任)、理化学研究所の近藤浩太上級研究員らの研究グループと、東京大学大学院工学系研究科、同大学院新領域創成科学研究科、大阪大学および金沢大学のグループで構成

 スピン流を電流に変換する技術は、スピントロニクス応用に欠かせない重要な要素技術の1つとされる。近年では、固体無機材料の界面においてスピン流と電流が効率的に相互変換されることが確認され、研究が盛んに行われている。一方で、有機材料は無機材料よりも設計自由度が高いにもかかわらず、スピントロニクス分野ではあまり研究が進んでいなかった。東大などの研究グループでは、「有機分子を用いて高効率なスピン流-電流相互変換を実証すれば、スピントロニクス応用に新たな可能性が切りひらかれる」とし、未開拓の有機材料の分子に着目し、スピン流−電流変換の研究を進めていた。

白金やビスマスなど重金属を用いたスピンホール素子と同等の性能

 今回、道路標識の青色顔料としても利用されている色素分子である「フタロシアニン」と金属銅の接合面で、高効率なスピン流−電流変換を実証したという。

 実験では、フタロシアニン分子の一種である鉛(II)フタロシアニン分子を銅表面に蒸着した界面に、スピンポンピング法によってスピン流を注入。注入したスピン流は電流に変換され、電圧信号として確認した。変換係数は「0.4nmと見積もられ、白金やビスマスといった重金属で報告されている変換係数の最大値に匹敵した」と無機材料と同等の効率が得られたとする。

分子/金属界面のスピン流-電流変換。 a:分子の模型と素子構造の概略図。b:スピンポンピングにより誘起された分子/金属界面のスピン流−電流変換の信号 (クリックで拡大) 出典:東京大学

 研究グループでは、変換効率の最大化に必要な条件を明らかにするため、分子層の厚み(膜厚)を系統的に変化させた試料を作製し、スピン流−電流変換由来の電圧信号の変化を計測。その結果、単一分子層(1ML)が形成されたときに電圧信号は最大になることを確認し「単分子膜の形成がスピン機能の発現に重要な役割を果たしていることが分かった」としている。

分子層の構造と膜厚依存性。a:スピン流-電流変換信号の分子膜厚依存性(MLは分子層を表す)。b:単一分子層で覆われたCu(111)界面の走査型プローブ顕微鏡像(水色の枠は1つの分子を表す. 白線は5nmを表す)c: 1.9MLの場合。d:1つの分子を拡大した高分解能像(左/白線は1nmを表す)と、鉛(II)フタロシアニン分子の構造式(右)(クリックで拡大) 出典:東京大学

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