ロジック半導体では、設計だけを行うファブレスと、製造に特化したファウンドリーの分業化が進んでいる。そのファウンドリー分野で、世界市場の50%以上を独占しているのが台湾のTSMCである。
図8に、ファウンドリーのトップ5社の売上高推移を示す。「ファウンドリーはTSMC1社しかないのか?」と思えるほど、TSMCの売上高とその成長率が突出している。
また、ファウンドリーの売上高トップ5には、TSMC以外にも、3位のUMC(台湾)、4位のSamsung(韓国)、5位のSMIC(中国)を含めて、4社の東アジアの企業がランクインしている。その4社が、世界のファウンドリーの売上高に占める割合は、約70%となっている。つまり、ファウンドリー分野においても、東アジアが世界の中心となっていると言える。
図9に示すように、半導体の世界市場に占める中国市場の割合は、年々増大しており、2019年には35%に到達した。これは、「世界の工場」となったホンハイが、韓国や日本からメモリを、台湾からロジック半導体を調達し、PC、スマートフォン、各種デジタル家電、サーバなどを生産しているからである。
ただし、中国は必要としている半導体の約15%しか自給できていない。そこで、習近平国家主席肝いりの「中国製造2025」により、半導体の自給率を大幅に向上しようともくろみ、中国国内にDRAMやNANDの巨大工場を建設しようとしている。その結果、2019〜2020年には韓国に匹敵するほどの前工程製造装置を導入することになった。
ところが、これに危機感を抱いた米国が、DRAMを製造しようとしていたJHICCをエンティティーリスト(EL)に追加するなど、中国の半導体産業の成長を阻害している。従って、中国は、世界最大の前工程装置市場になりつつあるが、それに見合う半導体は今の所、製造できていない。
図2に示したように、かつて世界出荷高の約50%を占めていた日本の半導体シェアは、2017年には7%にまで低下してしまった。世界で戦える企業も、NANDのキオクシアやCMOSイメージセンサーのソニーくらいしか見当たらなくなってしまった。
しかし、それでも日本は、世界の半導体産業の中で、極めて重要な役割を担っている。それは、半導体製造装置、その部品や設備、さらには各種の半導体材料において、依然として強みを発揮しているからだ。
日本の半導体関連製品がボトルネックになっていることを世に知らしめたのは、2019年7月に勃発(ぼっぱつ)した日韓貿易戦争においてであろう。日本政府は、韓国に対して、フッ化ポリイミド、EUVレジスト、フッ化水素の輸出管理を強化した。
この中でも、フッ化水素の影響は甚大で、もし、サムスン電子やSK Hynixのフッ化水素の在庫が無くなったら、DRAMもNANDも、あらゆる半導体が1個もつくれなくなる事態になることが懸念された(拙著記事:「日韓経済戦争の泥沼化、短期間でフッ化水素は代替できない)。
このように、日本製品がなければ、「まったくお手上げ」になるものが多数存在する。製造装置でいえば、東京エレクトロン(TEL)のコータ・デベロッパ、TELや国際電気の熱処理装置、スクリーンのバッチ式や枚葉式洗浄装置、日立ハイテクの測長SEMなどがある(図10)。
また、欧米製の製造装置であっても、日本製の部品や設備が独占的なシェアを握っているものが無数にある。さらに、フッ化水素などの薬液やウエハーやレジストなどの半導体材料においても、日本製のシェアは高い。
要するに、日本が、韓国、台湾、中国、米国に、製造装置、その部品や設備、各種材料を供給し、それらを使って韓国はメモリを、台湾はロジック半導体を製造しており、その半導体が中国に集積されて各種の電子機器が組み立てられているのである。
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