東北大学は、日本製鋼所や三菱ケミカルと協力し、直径2インチ以上で品質が高い窒化ガリウム(GaN)単結晶基板の量産を可能にする新たな結晶作製法を開発した。
東北大学多元物質科学研究所の秩父重英教授らは2020年6月、日本製鋼所や三菱ケミカルと協力し、直径2インチ以上で品質が高い窒化ガリウム(GaN)単結晶基板の量産を可能にする新たな結晶作製法を開発したと発表した。高出力で高周波動作が可能な縦型パワートランジスタへの応用が期待される。
GaNは、電力制御を行うパワートランジスタの半導体材料として注目されている。広い禁制帯幅や高い絶縁破壊電界、速い飽和電子速度といった物性を有しているためだ。ところが、高品質のGaN単結晶基板は製造方法が難しく、材料コストが高価となるため、本格実用化に向けて大きな課題となっている。
GaN単結晶の代表的な成長方法としては、CVDプロセスを活用する「気相成長法(HVPE:Halide vapor phase epitaxy法)」、高圧の超臨界流体アンモニアを用いる「酸性アモノサーマル(SCAAT:Supercritical acidic ammonia technology)法」、ガリウム(Ga)を融かしたナトリウム(Na)溶液を高圧の窒素雰囲気下で加熱する「Naフラックス法」などが研究されているという。
秩父氏らの研究チームは今回、低圧酸性アモノサーマル(LPAAT:Low-pressure acidic ammonothermal)法を新たに開発した。従来のSCAAT法とは異なり、低圧での結晶成長を実現した。このため、比較的小さな結晶成長炉を用い、直径2インチ以上のGaN単結晶基板を量産することが可能だという。
実験では、SCAAT法とHVPE法により作製した2種類のGaN種結晶上に、LPAAT法を用いて直径2インチのGaN単結晶基板を作製した。このGaN単結晶基板は、対称面/非対称面のX線ロッキングカーブ半値全幅が28秒以内と結晶モザイク性が低い。しかも、曲率半径が約1.5kmと基板の反りもほとんどない、極めて良好な結晶構造特性であることが分かった。
さらに、結晶成長炉の内壁を銀でコーティングした。これにより、鉄やニッケルなどのコンタミネーションを抑え、意図しない不純物がGaN結晶中に混入することを防いだ。低温フォトルミネッセンスからは、GaNの励起子遷移に関わる発光が確認されるなど、優れた結晶性と高い純度を達成していることが分かった。
研究チームは今後、LPAAT技術を内径120mm以上の大型炉に適用し、優れた結晶構造的特性を有する直径4インチ以上のGaN基板を作製していく計画である。LPAAT法によるGaN単結晶の光学的・電気的な特性もさらなる向上を目指す。
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