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光トランシーバーのForm Factor規格(その3)〜800G、そしてその先へ光伝送技術を知る(11)光トランシーバー徹底解説(5)(3/3 ページ)

» 2020年06月29日 11時30分 公開
[高井厚志EE Times Japan]
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戸惑う? 名称の問題

 さて、この系列で筆者が気になっているのが名称である。名称は、ユーザーなどをはじめ市場で使いやすいものにするのが一番だ。SFP28やQSFP28は、それぞれ25GbEと4x25G=100GbEで使用されるForm Factorの名称として分かりやすい。しかし、以下のような名称は、もう少し明確化した方がいいのではないだろうか。

 例えば、InfiniBandでは4x50G 200GbEトランシーバー(HDR 200)にQSFP56といった名称を使用している。4x50G=200Gで分かりやすい。ただ、電気信号にはOIF-CEI-56GのPAM4(28GBaud)を用いており、QSFP56のForm Factor仕様は、QSFP28規格がそのまま使用されている。

 さらに、ややこしいことにOIF-CEI-56Gにおいて、光以外ではNRZ(56GBaud)が主流になってきている。SNR(Signal-Noise-Ratio)を改善しよりレイテンシの短いFECを用いるため、HPCやメモリインタフェースなどではNRZが望まれている。しかし、同じ56Gbit/sでも、28GBaud PAM4と56GBaud NRZでは帯域が違うので、カードエッジなどの仕様が異なるのだ。

 例えば200Gでは、QSFP56P(28GBaud PAM4)、QSFP56N(56GBaud NRZ)などの名称が明確な定義となる。しかし、これらがユーザーに分かりやすいかどうかは疑問だ。ユーザーやシステム設計者などが「えっ」と言わないような名称が必要ではないか。

 一方、Form Factor MSAでは、カードエッジ仕様を変更するがバックワードコンパティビリティを維持している。トランシーバーだけを見ると、カードエッジ仕様とEMI仕様を規定しているにすぎないので、電気信号速度と関連付けるのはトランシーバーサプライヤーであり規格ではないと考える人もいる。また、μQSFPのように1x、2x、4xで使用する場合も規定している。つまり、柔軟な使い方が可能となっているのである。ここもForm Factorの名称定義の明確化が必要だろう。

(8)今後のSFP系光トランシーバーForm Factor

 図10に、データセンターで使用されている光トランシーバーのForm Factorについて、その伝送速度と電気信号速度でマッピングしたものを示す。塗りつぶした円がSFF(Small Form Factor)規格に存在するForm Factor、ドットの円が今後に規格化が推測されるForm Factorである。

図10 トランシーバー速度、電気配線速度とForm Factorの関係

 これらの仕様は、SFF委員会とこれを引き継いだSNIA (Storage Networking Industry Association)のSFF TA (Technology Affiliate) TWG (Technical Working Group) で規格化が進められてきた。今後も同様に進められるであろう。例えばQSFP-DD800はMSA規格であるが、SFF規格に採用されると考えられる。

 より速い電気信号インタフェースを開発する努力と、信号数を4x、8xと増やす工夫によって、高速伝送トランシーバーを実現している。

 高速電気信号は、「ムーアの法則」で発展してきた半導体技術の他、基板などの材料や加工技術、コネクターの広帯域化技術などの進化によって発展してきた。高速化でシステム要求を満たせない時には信号数を増やしてきた。ところが、信号数でトランシーバーの横幅が決まるので、フロントパネルに搭載できるトランシーバーの数も信号数で決まる。現在、19インチ幅ラックに2段で32個搭載することを目標に規格化されている。

 図10で示した通り高速化が進むと、一つの伝送容量(bit/s)に対しそれを提供できるForm Factorは一つでない場合がある。100Gは現在QSFPが主流だが、小型のSFPで提供できる。ただし、小型なので規格に合った低消費電力を実現しなくてはならない。同様に400Gは主流のOSP/QSFP-DDに対しQSFPがあり、800GはこれからだがOSFP/QSFP-DDとQSFPの候補がある。一般論として、技術革新で実現できれば信号数が少ない方が小型低消費電力で価格も安い。しかし、どのForm Factorが主流になるかは、技術だけではなく時期やエコシステム構築の容易さなどにもよるので予測は難しい。

 さて、800Gの先において1.6Tを実現するPluggableトランシーバーのForm Factorはどういうものだろうか。従来の展開のスキームから8x 200Gbit/s電気インタフェースのOSFPとQSFP-DDか、16x 100Gbit/s電気インタフェースの新しいForm Factorの二通りが考えられる(もう一度図10を参照してほしい)。

 既にOIFでCEI-224Gの規格化の議論が始まっているので、200G電気インタフェースは可能だろう。だが、Pluggableの場合、スイッチICからフロントパネルまでの約20cmの電気信号接続距離を、どう接続するかが課題である。図11のように、QSFP-DD800で追加採用された同軸ケーブル接続を全面採用することが一つの解決策かもしれない。ただし、図11はトランシーバーが2個の例だが、32個搭載することを考えるとサイズ、重さや占有面積、他部品との競合などで改善の余地があると考える。

 16xのForm Factorとして、OSFPのDouble Density版であるOSFP-DDが考えられる。8xのOSFPのカードエッジをフロントパネルから見て後方に伸ばし、そこに8xを追加し16xとするのだ。OSFPとのバックワードコンパティビリティを保てるので、QSFP-DDとの競争上の有利ポイントとなる。ただし、このForm Factorのコネクターはチャレンジングである。0.60mmピッチの前後にあるコネクターピンを精度よく接触させ、カードエッジとコネクタピンを長くしたことによる劣化を防ぎ、高周波特性を確保することが技術的な課題だ。

 また、別の方式としてCDFPのようにカードエッジを2枚とする選択肢もある。さらに、0.60mmピッチを、例えば0.40mmに狭める挑戦も考えられる。この場合、全く新しいコネクターの構造が必要である。

 いずれにしろ、8xから16xへは実装上の挑戦が必要となる。パッシブ部品の材料や高精度製造技術の進歩を期待し、可能性はあると考える。

図11 112GBaud伝送可能な2心同軸配線 画像:Samtec

(次回に続く)


筆者プロフィール

高井 厚志(たかい あつし)

 30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。

 日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。

 さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。


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