メディア

ソリッドステートLiDARで200mの測距を実現、東芝「機械式」並みの長距離性能(2/2 ページ)

» 2020年07月07日 00時00分 公開
[永山準EE Times Japan]
前のページへ 1|2       

2つの課題を解決した東芝の独自技術

 SiPMは、微かなレーザーの反射光を高感度に検出することが可能で、LiDARの長距離測定に適した受光デバイスとされる。だが、一度光を検出した受光セルは一定時間応答ができなくなるといった物理上の特性があるため、漏れなく光を検出するためには多数のセルを搭載することが必要だった。

 さらに従来技術では、例えば1mの近距離対応のためには、1cmレベルの高い距離分解能実現にためのTDC(タイムデジタルコンバーター)、200mの長距離に対応するには平均化のためのADCなど、それぞれカスタマイズした多チャンネルの読み出し回路が必要となるため、大きなチップ面積が必要となるといった課題もあった。

従来技術にあった2つの課題について(クリックで拡大) 出典:東芝

 東芝はこの2つの課題を独自の技術で解決したとしている。具体的にはまず、SiPM上に受光セルを再起動させるトランジスタを搭載することで、受光セルが応答できない時間を短縮することに成功。これによって、少ないセル数でも効率よく光を検出できるようになり、SiPMの大幅な小型化を実現したとしている。この小型化によって、限られたパッケージ面積内に多数のSiPMを配列することができることになったため、高解像度化も実現している。

 読み出し回路の面積の課題は、新たに開発した「デュアルデータコンバーター(DDC)」によって解決した。同社が長年培ってきたアナログ集積回路技術によって実現したもので、VCO(電圧制御発振器)を用い、その位相情報を再利用することでADCとTDCデータを同時に取得するというもの。ADCとTDCの機能を同一回路で実現したことで、従来と比較し5分の1のサイズにまで小型化したという。

2つの課題を解決した東芝の技術の概要(クリックで拡大) 出典:東芝

  東芝はこの技術を実際に市販のレンズを用いたシステム構成で実装。ソリッドステート式では従来比4倍となる200mの長距離測定性能と高い解像度を達成したとしてる。

英国エジンバラ大学が開発する非同軸タイプのLiDARシステムとの性能比較。東芝のシステムは太陽光が強い炎天下での測定にもかかわらず、同大のシステムを上回る性能を実現したとしている(クリックで拡大) 出典:東芝

 ただ、今回の200mの長距離性能は視野角を7度に絞った状態での測定結果であり、レベル4の自動運転システムにおける長距離測定用としての性能にはまだ届いていないという。同社は、「例えば30度の視野角にすると距離測定性能は100m程度になる。LiDARは視野角と解像度と距離がトレードオフの関係にある。それを加味すれば、今回は近距離、中距離用途のLiDARが開発できた、ということになる」と説明。2022年度までに車載グレードの対応および、長距離測距性能を持った計測ICや受光素子の実用化を目指すとしている。

 なお、非同軸タイプのこの技術は市販のレンズと組み合わせて使用することができるため、今回の小型、高性能化によって乗用車のほか、バスや作業車など多様な車種への搭載が容易となるほか、ドローンやロボットへの搭載なども期待できるとしている。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.